今日は天気が良かった。


ここ何日かは
穏やかな晴れが続くみたいで
安心した。


この分だと
明日の飛行機は問題なく飛びそうだ。


明日から新婚旅行。


旅行自体が久しぶりなので
胸が高鳴っていた。



南側の掃き出し窓からは
夕日の暖かな光が射し込んでいる。


夕日は向かいの建物を
キャンバスにして
鮮やかに映えていた。


ベランダに干していた洗濯物は
すっきりと乾いた。


その洗濯物を畳みながら、
考え事をしていた。





私には大事な親友がいる。


その親友とは高校が一緒で
同じ大学に進学した。


その親友の名前は、ねる。


機転が利いて、気も利いて、
可愛くて話しやすいけど、
結構人見知りなところがある。


高校の時は、
お互い励ましあって
受験を乗り切った、
いわば戦友でもある。


他の人には言えないことも
彼女になら打ち明けられた。


そして、彼女も私に
悩みを打ち明けてくれた。


彼女は冷静で聞き上手だから、
ついつい相談をしてしまうし、
意見を求めてしまう。


口に出して直接言ったことは
ないけれど、
私は彼女をとても信頼している。


だから、
というわけではないのだけれど、

彼女の事となると、
放っておけなくなってしまう。



昨日は久しぶりに
ねると飲みに行った。


私から誘った。


実は、私が行動しなかった事で
ねるの心の傷を広げてしまった
かもしれない。



数ヶ月前、
私は大学から付き合っていた
彼と入籍した。


そして、数週間前に結婚式を挙げた。


その結婚式には、
ねるの元カレが来ていた。


ねるの元カレは、私の夫の後輩で、
夫はその後輩を
弟のように可愛がっている。


私はねるに、
その元カレが式に来る事を
予め伝えていた。


彼女がまだその元カレに
未練があるといことを
前々から相談されていたからだ。


だから、私は
式が絶好の機会だと思って、
この機会を利用して
想いを伝えるべきだと助言した。


だけど、夫の方は
その後輩に元カノである
私の親友が出席することを
伝えられずにいた。


でも、その事で夫を
責めるつもりはない。


私が夫の立場なら、
たぶん同じように悩んだ末に
伝えられなかったと思うから。



だけど今更ながら、
夫が伝えられなかったのなら
私から、ねるの元カレに伝えても
よかったのかもしれない
と思っていた。



けれども、問題はそれだけではない。


後日、式の出席者名簿を
確認していた時、
ある事に気がついた。


それは、
ねるが今現在住んでいる
マンションは、
その元カレと同じマンションだと
いうことだ。


しかも、まさかの同じフロア。


昨日の飲みの誘いは、
その事を確認するためだった。





ねるの住んでいるマンションは
欅荘という。


万が一近所に第二マンションが
あるかもしれないから
聞いてみたけど、
無いということがわかった。


ねるは元カレが同じマンションの
同じフロアに住んでいることには
全く気が付いていなかった。


自分のしている事が、
とても回りくどく感じた。


正直にその事実を伝えたかった。


でも、事前に夫と相談し、
ねるには、まだその事は
内緒にしておく事にした。


いくら冷静な彼女でも
想い続けている人がすぐ近くにいたら
さすがに動揺してしまうと思ったから。



だけど、この判断が
良かったのかどうかわからない。



夫曰く、夫の後輩も
ねるに対してまだかなりの未練が
有るみたいだった。


二人が未だ想い合っている事を
わかっていながら、
内緒にしておくのは
本当のところ見ていられなかった。


すぐにでも
彼女のマンションに行って、
彼女を元カレの部屋まで
引っ張って行きたかった。



けれど、
今ここでお節介を焼いても
いいものなのかと考えた。


その良かれと思ってした
お節介が原因で、
関係を余計こじらせる
なんてことも起こりかねない。


それは、
ねると元カレの関係も
そうなのだけど、

私とねるの関係にも
やり方次第では
亀裂が生じてしまうと思っていた。


親友には幸せになってもらいたい。


だけど、親友との関係を壊したくない。


私とねるとの関係が
そんな脆弱なものではないと
思っている。


でも、人の恋愛に口出し出来るほど
私は恋愛に関して手練れではない。


別れてから何年も忘れられない程の
苦しい想いを経験していない。


そんな私が、彼女の心を
えぐってしまうかもしれない事に
簡単に口を出して良いとは
思えなかった。


もしかしたら、
考えすぎなのかもしれない。


ほんの一言
伝えてあげてもいいのかもしれない。


でも、怖くてそれが出来ない。


あの二人がやり直してくれるなら
それに越したことはない。


私も夫も、以前のように
また4人で食事をしたり
出掛けたり出来たら、

なんて時々想像している。


その実現出来そうな想像が
遠ざかっていくような感覚を覚えると
無性に寂しく感じることがある。



今、ねるには同じマンションに
気になる人がいるみたい。


もしかしたら、
今後その人とお付き合いする
なんて事もあるかもしれない。


その時は応援しようと決めている。



彼女の人生だから、
私がとやかく言ってはいけない。



だけど、彼女の事を考えると
どこか胸がザワザワするのは、

やはりあの二人に、
もう一度、奇跡が起きることを
願っているからなのだと思う。





玄関が開く音がし、夫の

「ただいまー」

という声が聞こえた。



そうだ、
夫に買い物を頼んでいたんだった。


「おかえりー」


私は畳んだ洗濯物をソファーに置き
玄関に向かった。





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