差し出されたマグカップを
受け取ると、妻が顔を覗いてきた。
「ありがと」
「・・・・・大丈夫?
なんかぼーっとしてるよ。
もしかしたら昨日の事?」
「ん、わかる?」
「もう顔に"平手が心配"って
書いてる(笑)」
「マジかぁ(笑)」
「ホントわかりやすい(笑)」
「なんかさぁ、
同じマンションの
同じフロアに住んでても、
生活時間が少しズレてるだけで
顔って合わさないもんなんだな・・・」
「そうだね。
同じ駅を利用してても
乗る電車が一本違うだけで
すれ違っちゃうし・・・」
「だよなぁ・・・・・」
「休みの日が重なるって事は
あるよねぇ・・・」
「あるとは思うけどさ・・・
だからって
すんなり会えるわけじゃないだろ」
「そこねぇ・・・・・」
「なんだかなぁ・・・・・」
俺と妻は
お互い軽くため息をついていた。
「そういえば私ね、
前住んでたアパートのお隣さん
一度も見たことなかったな・・・」
「ああ、俺も、
同じ階に誰が住んでたか
知らなかった・・・・・。
そういうもんなのか」
「そういうもんなのかもね。
でも、出会って欲しいな
二人には・・・・・」
「そうだよなぁ・・・・・
なんか、こう、
ドラマチックに会えないもんかな」
俺と妻はドラマチックな
出会い方とはなんぞや、と
想像を巡らせた。
「同じマンションなんだから、
エレベーターとか
エントランスで出会う確率高いよね」
「そうだな」
「あー、こういうのはどう。
二人がエレベーターに
乗り合わせたら、
急に停電しちゃうの?」
「おお、それで」
「非常灯で二人の顔が
うっすら照らされて」
「それで、それで、
見つめ合う二人とか・・・?」
「ううん・・・・・
たぶん、ねるが
さらっと非常ボタンを押すでしょ」
「ああ・・・」
「で、ねるが冷静に電話を掛ける・・・」
「・・・・・それ、ダメだな・・・・・
しかも、ちょっとリアルだった」
「だね・・・・・
少しの間、あの二人の事
考えるのやめてみよっか」
「それがいいのかもな。
今すぐどうこう
ってわけではないだろうけど・・・
なんか少し責任っていうか、
そういうの感じちゃってて」
「でも、仮に伝えたからって
二人の間にどの程度変化があるか
なんてわからないよ。
二人の事は二人にしかわからない」
「そうなんだけど・・・」
妻とは大学から付き合っていて
喧嘩をしたことはあっても、
別れ話なんて一度もした事はない。
だから、
別れを選択した二人の気持ちは
察することはできても
理解はできなかった。
別に平手がこの事に
理解を求めてきたことは無い。
だから別れた理由を
深く追及したりもしなかった。
それでよかったと思っている。
親しき仲にも礼儀あり、だ。
ただ、相思相愛の二人の間に
亀裂が入ったことには
少なからず衝撃を受けていた。
多少の口出しをしたところで、
俺と平手との関係が
そう簡単に崩れる事はないと
わかっている。
だけど、
人の色恋に立ち入るって事は
そういう親しい関係を崩してしまう
恐れが十分にある。
そういう事は
経験でしか語れないからだ。
だから、
知ったかぶりなんて出来ない。
誠意を持って応じたい。
そうやって人見知りな
アイツとの関係を築いたんだ。
まあ、他人から見たら
大したことではないかもしれない。
ただ、俺も、
一度築いた信頼関係を取り戻す
大変さは人並みに知っている。
アイツとの関係は絶対に壊したくない。
妻はそのことを十分わかっている。
だから、今回の事で
俺を責めたりはしなかった。
感謝している。
俺と妻は、
この話しの続きは、
旅行から帰ってきてから
する事にした。
正直、旅行期間中に
二人が運命的に出会ってくれることを
願っている。
そして、そこで
めくるめく展開が起これば
なんの問題もない。
ただし、あの二人に限って
そういう展開はあまり望めない気が
している。
あの二人は若いのに
どちらかというと、
地に足が付いてるタイプだ。
痛いくらい現実を見つめている
気さえしてしまう。
言動云々というより
精神的にだいぶ大人なのかもしれない。
まあ、あくまでも
俺の見立てなんだけど・・・
そういうわけで、
あの二人にドラマチックな展開を
期待してはいけない。
と、俺は自分に言い聞かせた。
いや、期待しちゃうよ。
早く出会えよ!!
もうホントわかんね~
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