数品おかずを摘むと
僕は3杯目のレモンサワーを
注文した。


やはり、どんなに見張り付きでも
僕にしてはいつもより
かなり酒量が多かった。


すると志田先輩が
突如話題を変えてきた。



「お前の住んでるマンションって
 欅荘っていうんだろ」


「はい、そうですよ」


「やっぱりあれか、
 欅って名前で決めたのか?」


「ははっ、その通りです」


「そのマンションってさ、
 近くに第二とかあるわけ?」


「いや、無いと思いますよ」


「じゃあさ、
 同じフロアに何部屋あるんだ?」


「え~と10部屋ですね。
 僕が一番真西の部屋で
 510号室なんで」


「おっ、そうかぁ・・・・・」



志田先輩は
どこかニヤケた顔をしていた。



「先輩、もう次の部屋
 探してるんですか?
 今のマンション
 気に入ってたじゃないですか。
 しかも、欅荘は単身者向けで
 二人だと狭いと思いますよ」


「あーいやいや、
 そうじゃないんだよ。
 お前が住んでるところに
 ちょっと興味があっただけ(笑)」


「えっ、なんかそれ
 気持ち悪いです・・・・・」


「気持ち悪いって、お前なぁ(笑)」


「あれっ、ウチに来たこと
 無かったですか?」


「その欅荘には
 まだ行ったことねーな」


「えっ、そうでしたっけ・・・」


「前住んでたアパートには
 何回か行ったけどな」


「じゃあ来ます?」


「じゃあって(笑)。
 そのうちな、
 遊びに行かせてもらうよ」


「それじゃあ、その時は
 鈴本さん直伝のナポリタン
 作りますね(笑)」


「おっ、期待してます(笑)」



志田先輩はそう言うと
にこりと笑った。


そして何故か僕が住んでいる
マンション欅荘の話を続けた。



「そのマンションってさぁ、
 美人多いだろっ」


「はぁっ、何言ってるんですか。
 理佐さんみたいな
 とびっきりの美人もらっておいて
 ホントどうしたんですか?」


「別にどーもしてねーよ(笑)。
 ただ、なんとなくさ、
 美人多そうだな、と・・・」



僕は今日見た
赤い傘の女性を思い出していた。


後ろ姿しか見ることが
できなかったけど、
後ろ姿は相当な美人だった。


元カノに未練たらたらな
寂しい男の願望で、

赤い傘の女性が、
見返り美人であることを
どこかで願っていた。



「今日見た人は、
 たぶん美人ですよ・・・
 後ろ姿だけでしたけど」


「へぇ~、ほら、
 やっぱいるじゃん。
 どんな感じの人?」


「いや、それが・・・・・
 長濱さんに似てたんで
 つい見とれちゃって・・・・・」


「えっっ!?
 あー・・・ わりぃ・・・・・」


「いえいえ・・・・・」



僕は、今日見た
その赤い傘の女性の話を
志田先輩にした。



「・・・・・だから、 
 長濱さんに未練を持ちつつも、 
 何かその人が
 気になってるんですよ」


「赤い傘ねぇ・・・・・
 まあ、よかったんじゃないか。
 次に進めそうな材料を
 見つけられて」


「先輩、材料って・・・
 料理じゃないんですから」


「料理みたいなもんだろ。
 作り手次第で如何様にもなる。
 つまりは、お前次第ってことだよ。
 おお、なんか俺、
 結構上手いこと言ったよな(笑)」


「うわっ、
 自分の発言、自画自賛って(笑)」


「え、いいだろぉ~。
 いいアドバイスだと
 思ったんだけどなぁ・・・」


志田先輩はワザと
しょんぼりした顔を作った。


「先輩なんか猫被ったみたいで
 気持ち悪いです(笑)」


「もうフルフェイスだから」


「まあ、確かに
 すげー猫顔ですよね(笑)」


「お前なぁ(笑)」


「あはっ、すいません(笑)。
 でもホントそうなんです・・・
 僕次第なんですよね・・・・・」


僕は大きなため息をついていた。


「まあ、あれだ、
 その赤い傘のたぶん美人、
 見たら教えてくれよ」


「え、あーはい、わかりました。
 レポート書いて送りますよ(笑)」


「それめんどくせー(笑)
 あっ、じゃあ新婚旅行から
 帰ってきたらさ、
 お土産渡すついでに、
 お前ん所に行ってもいいか?」


「はい・・・・・って先輩、
 新婚旅行いつからですか?」


「明後日から」


「えっっ!? 
 いいんですか、
 こんなところで油売ってて。
 準備あるんじゃないですか?」


「準備はもうとっくに
 出来てるから大丈夫!
 今日は念のため確認だよ」


「確認・・・・・? 何のですか?」


「あー・・・ ははっ
 アレだよ、アレ・・・・・
 急に出掛けても
 胃が正常に働くかの確認だよ!
 ほら、こんだけ酒飲んでも
 まだ全然大丈夫。
 この調子なら海外でも平気だろ」


「はあ・・・・・」



先輩の言動は
何となく不自然に感じた。


そしてどこか腑に落ちなかった。



気のせいだろうか・・・・・





まだまだ電車がある時間に
僕と先輩は飲み屋を出た。


なんだかんだ
先輩と話せたことで、

自分の現在地を
確認出来た気がした。



そして、
僕の心は間違いなく
長濱さんで止まっている事を
再確認させられた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー