僕の部屋から朝日は見えない。


その代わり、
焼けるような夕日が見える。



真夏は西日が燦々と、というより
ギラギラと射し込む。


だから、一日中カーテンを引いて
いなければ部屋が蒸し風呂状態に
なってしまう。



西日が射し込むこの部屋は、
暑い季節はとにかく大変だ。


毎日のようにエアコンを
タイマーセットして出掛けなければ
いけない。


それを忘れた日は、
もう自分を殴りたくなるくらい
後悔する。



だけど、
寒い季節は、それなりに暖かい。


エアコン若しくはストーブから吹く
温風を待ち焦がれなくてもいい。


晴れた日なんかは特に
そこはかとなく、ほっこりと
暖かい空気が部屋を包んでいる。





僕は今住んでいるのこの部屋が
気に入っている。


1年程前に引っ越してきた。



僕の住んでる賃貸マンションは、
そんなに古くはないのに
昔ながらのアパートみたいな名前を
している。


その名も、"欅荘"。



数年前、僕が大学生の頃に
住んでいた寮の名前が
"欅寮"だった。


なんとなく、
"欅"という名前に惹かれて、
内見した。


住む場所も人と同じで、
第一印象は結構大事だと思っている。


だから、自分の感覚を信じて、
内見した数週間後には、
もうこの欅荘に引っ越していた。





僕は大学時代、大好きな人がいた。



僕と同じ欅寮に住んでいた。



知的で綺麗で可愛くて、
話し上手で聞き上手、
笑顔が素敵で、

泣いたり、怒ったりした時も
声がやわらかくて、

なんかあんまり迫力がなくて、
そんなところも可愛くて・・・・・



誰かに話しても
信じてもらえないような、
ものすごく不思議で
SFチックな体験をした直後に
僕から彼女に告白をした。



両想いだった。



喧嘩したこともあったけど、
彼女といられる時は
本当に幸せだった。





僕が大学を卒業した年に別れた。


彼女が仕事で海外に行くことが
決まった。大抜擢だった。


凄い事なのに全然喜べなかった。


僕があまりに子供過ぎた。


アルバイト経験はあっても
まだ社会人としては1年生の
ひよっこだった。


まあ、今もまだまだ一人前とは
言えないけれど、

思い返すと、
あの頃の僕は、本当に子供だった。



彼女から海外に行くと言われた時、
少しパニックになった。


ずっと一緒にいられると
思っていたから・・・・・


そして、寂しさのあまり、


(僕と仕事、どっちが大事なんだよ)


なんて言ってしまった。


彼女は、そんな僕の言葉に
興醒めしたのだろう。


きっと彼氏として、
背中を押してくれる言葉を
期待していたに違いない。


なのに僕は、


"頑張れ" とか、

"応援する" とか、

"待ってる" とか、

"逢いに行く" とか・・・・・


そういう言葉を
彼女に掛けてあげる事が
できなかった。


ただただ自分の感情だけを
ぶつけてしまった。



エアコンのタイマーセットを
し忘れた時の後悔なんて、
ほんの些細な事だと思えるくらい

僕は、彼女と別れた事を
未だに後悔している。



だからだろうか、

僕は、"欅"という名前に
吸い寄せられるようにして、

このマンションを選んだ。


彼女を忘れられず、
どこか感傷に浸りたい気分だったの
かもしれない。


だからといって、
毎日のようにセンチメンタルに
なっているわけではない。


そこまで暇ではないし、
センチメンタルになったところで
彼女が僕の所に
戻ってくるわけではない。


そんなことわかっている。





それでも、僕はこの部屋が好きだ。


あの日、欅寮のみんなと見た
夕日を思い出すからかもしれない。





何で僕が今、
こんな回想をしているかというと・・・・・





今日、数年ぶりに彼女に会った。



彼女は日本に戻ってきていた。



久しぶりに見た彼女は、
素敵な大人の女性として
僕の目に映った。





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