[Re:火曜日、午後10時50分]
日中は、あまりの暑さに
外出するのが億劫に感じたけれど、
夜は、暑いながらも
外の風が心地よかった。
すでに秋の虫が
涼やかな合唱を始めていて、
蝉の情熱的な合唱の季節は、
そろそろ終わりを告げていた。
僕達は今、
寮の前にある駐車スペースで
手持ち花火をしている。
何となく一度目の火曜日と
同じような時間に、
同じような事をしている気がした。
まあ、人間そうそう行動は
変えられないということだろう。
花火の先端に点火させる度に、
てちさんの笑顔を思い出した。
でも、今はもう
てちさんの「おお~!!!」
という歓声は聞こえなかった。
てちさんが無事だったという
安心感と、
もう、ここにはいないという
寂しさ、
そんな感情が入り交じって
少し複雑な気分だった。
それでも、
みんなで花火をするのは
やっぱり楽しかった。
水を張ったバケツには
終わった花火が何本も入っていた。
残りは線香花火だけになっていた。
僕達はあの日と同じように、
誰が一番長く線香花火を
保たせられるかを競争した。
みんなで一斉に
線香花火の先端に火を付けると
輪になってしゃがんだ。
寮の周辺はとても静かで、
虫の音と線香花火の"パチパチ"
という音だけが聞こえていた。
線香花火の
小さく温かい閃光は
儚く美しく、どこか情緒的だった。
少しの間、
みんなその閃光を見つめ、
言葉を発しなかった。
火の花びらが散り、
先端に丸い火球が残った時、
志田先輩が、
「この勝負に勝った人が殿様なっ!」
と、ニヤニヤしながら言った。
そうすると、渡邉さんがすかさず、
「何それ(笑)。王様じゃなくて」
とツッコミを入れた。
「そう、王様ゲームじゃなくて、
殿様ゲーム」
と、志田先輩が少し慎重に
火球を見ながら言った。
「じゃあ、ルールは?」
「勝った人が負けた人に
命令するのは
ちょっとありきたりだよな・・・」
と、小林さんと織田先輩が言った。
すると長濱さんが、
「勝った人の願いを叶える
っていうのはどう?」
と言った。
僕と鈴本さんが同時に、
「「賛成ー」」
と言ったので、
"勝った人の願いを叶える"
という何とも現実味無い
アバウトなルールに決まった。
みんな火球を落とさないように
慎重に花火を持った。
志田先輩が一度目の火曜日と
同じように、またもや変顔をしてきて
僕らを笑わせようとした。
「志田っ(笑)
また同じ手使いやがって」
「最初に落ちたりして(笑)」
「うおっ、マジで落ちた」
「あはっ、言い出しっぺなのに(笑)」
「あー、落ちたぁー」
「俺のまだ付いてる」
「僕のも・・・」
終盤は、鈴本さんと僕の
一騎打ちになった。
そして、僅差で、
僕の線香花火が最後まで残った。
正直驚いた。
二度目の時を過ごしていると、
何故か一度目と同じような時間に
同じような事をしていたり、
アイスあみだくじみたいに
一度目と同じアイスが当たったり、
だから、
てっきり今回は
鈴本さんの線香花火が
最後まで残ると思っていた。
だって、一度目の火曜日の夜は
てちさんと鈴本さんが
競り合っていたから。
もしかしたら時間の神様が、
瓜二つの僕とてちさんを
見間違ったのかもしれない。
そう思うことにした。
「じゃあ、
平手の願いを叶えましょう」
志田先輩が少し
ふざけながら言った。
「願いって、
いきなり言われても・・・・・」
まさか、
勝つとは思わなかった僕は、
急には何の願いも
思い浮かばなかった。
志田先輩がカウントを始めた。
「ほら、30秒以内に決めろよ」
これじゃあ、勝ったのに
罰ゲームみたいじゃないか。
僕は慌てて考えた。
第一、願いって考えるものなのか?
そんな今はいらない考えだけが
頭に浮かんだ。
僕はお盆明け、
何となく夏を謳歌したい
気分だった。
だから、早めに寮に戻ってきた。
縁日に行ったり、花火をしたり、
海にも行きたいと思っていた。
縁日には、
長濱さんを誘って行きたいから、
それを今ここで言いたくはないし、
花火は二回やったし、
残すは海かぁ・・・・・
「海に行きたい」
僕がそう、ぼそっと言うと、
「あー俺もっ!」
と鈴本さんが言った。
「明日行こうぜっ!!
明日まで"二度目"なんだから、
有効に使いたいしなっ」
「お店大丈夫なんですか?」
そう僕が聞くと、
「一度目の水曜日って
工事が休みだったから、
作業員が来なくてさ
けっこう店空いてたんだよ。
明日、二度目の水曜だろ、
たぶん大丈夫だ」
という、何とも説得力のある返事が
返ってきた。
そんなわけで
明日、二度目の水曜日は
海に遊びに行くことになった。
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