[Re:火曜日、午後8時30分]


夕食は、鈴本さんがナポリタンを
作ってくれたのでご馳走になった。



みんなで片付けをしている時、
玄関チャイムが鳴った。


僕と志田先輩が出たのだが、

玄関前にも、玄関先にも、
寮の周辺にも、寮の前の道路にも

誰もいなかった。


だた、玄関前に
かなり大きめの段ボールが
置かれていた。


その段ボールには、
上蓋部分に和紙が貼られ、


"欅寮のみなさんへ"


と綺麗な文字で書かれていた。



志田先輩が箱を持ち上げようと
したところ、
一人では持ち上げきれず、
二人がかりで
何とか食堂まで運んだ。



「なあにそれ?」

「玄関に置いてあったんです」

「これ、すげー重たいんだけど」

「うわっ、ほんとだ何これ」

「差出人は?」

「書いてないみたい」

「開けてみよっか」


段ボールに貼られた
ガムテープを剥がすと、

中には大玉のスイカが
7個も入っていた。


どうりで重たいわけだ。


スイカの上には封筒があった。


封を開けると、
一通の手紙が入っていた。


その手紙には綺麗な文字で、
こんな事が書かれていた。



(この手紙を受け取った
 ということは、避雷針が
 お役に立ったみたいですね。
 安心しました。 

 私とクロは少し遠くに行きます。
 けれど、心配しないで下さいね。 

 今まで駄菓子屋子猫屋を
 利用して下さってありがとう。
 
 駄菓子屋の主しての生活は、
 毎日若い人とお話が出来て
 楽しかったです。
 
 子猫屋の事は、あの日に
 私とクロの話を聞いて下さった
 みなさんが覚えておいて下されば
 充分です。
 
 西瓜は、暑気払いに
 召し上がって下さい。
 
 それでは、みなさんお元気で。
 
 桜とクロ)
 

 
スイカは、桜さんとクロから
僕達への贈り物だった。


お礼を言いたいのは
僕達の方なのに。

少し遠くってどこだろう?



結局、桜さんが何者なのか
わからないままになってしまった。


しかも、どうして
僕と鈴本さんと長濱さんだけが
クロの言葉を理解し会話することが
出来たのだろう?


店ごと跡形もなく消えてしまうなんて
本当に謎すぎる。





僕達は桜さんから贈られた
スイカを遠慮なく頂くことにした。


食堂の台所で一個を
適当なサイズに切り分けた。


テーブルまで運ぶのが大変だったので、
少し行儀が悪いが、
みんなで台所で立って食べた。



そんな時、
鈴本さんが神妙な面持ちで、


「何か、俺の中で全然
 整理出来てなくて、
 話すかどうか迷ってたんだけど、
 桜さんから手紙が来てるし、
 スイカもらっちゃったし、
 とりあえず話すわ」


と言うと、
一呼吸おいて話を始めた。


「昨日、爺ちゃんに
 駄菓子屋のことを聞いたらさ、
 その駄菓子屋は
 とっくに無いって・・・」

「どういうことですか?」

「爺ちゃんが
 子供の頃にはあったけど、
 もう何十年も、
 駄菓子屋があった場所は
 空き地だって・・・・・」

「え!?」

「しかもさ、親父もお袋も、
 そんな駄菓子屋知らないって」

「何それ・・・・・」

「だからさ、
 てちさんのタイムスリップに
 関わった俺らしか、
 駄菓子屋の記憶が
 残ってないんじゃないかと思って」



確かに・・・



昨日(二度目の月曜日)の夜も、
今日(二度目の火曜日)の日中も、

僕達以外の人は、
駄菓子屋の跡地に目もくれず
通り過ぎていた。

桜さんからの手紙にも、
僕達が子猫屋を
覚えておいてくれれば充分
だと書いてあった。

やはり、
てちさんのタイムスリップに
関係しているのだろう。


でもなんで消えたんだ・・・・・





なんて、ぼーっと考えていると、


「わたし達だけが共有してる
 記憶って何か凄いよね。
 でも、わたしは今回の事
 全部わからなくてもいいかな・・・
 謎のままの部分があっても
 いいと思う」


と長濱さんが言った。


すると、鈴本さんが、


「そうだな!
 謎のままでもいいよな。
 説明出来ないこと
 ばっかりだったし」


と白い歯をみせて笑顔で答えた。





一度目の月曜日から水曜日までの
3日間も、

二度目の月曜日(昨日)も、
火曜日(今日)も、

本当に説明出来ない事
だらけだった。


長濱さんの言う通り
謎のままの部分があってもいい。


そのほうがいい。


実のところ、
もう頭がパンク寸前だ。



僕は、謎のままにしておく事を
すんなりと受け入れた。





桜さんとクロを思い浮かべながら
スイカを食べた。


スイカは冷やしてなかったから
少し生ぬるかったけど、
甘くて、美味しかった。


スイカを食べている時、
何だか、実家に帰ったかのような
懐かしさを感じた。

それは、
僕だけだったのだろうか・・・・・





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