[火曜日、午後9時15分]
今、欅寮には
駄菓子屋子猫屋の主である
桜さんという上品なお婆様が来ている。
桜さんは食堂の椅子に座り、
麦茶を飲み一息ついていた。
桜さんの愛猫である黒猫のクロは、
水を飲み終えると彼女の足下にきて
猫なのにまるで忠犬のように座った。
桜さんはクロが座るのを確認すると
話を始めた。
「私が今日こちらに来た理由は
みんな、何となくわかっているのね」
僕達はコクリと頷いた。
「昨日の雷は、
あの井戸に落ちたのよね。
閃光と轟音、
それとキラキラとした
美しい光を見たかしら」
昨日、不思議な雷に遭遇した
僕を含めた4人は
またもコクリと頷いた。
「・・・やっぱりそうね」
桜さんは、
あの井戸に雷が落ちることを
まるで以前から知っていたかのような
話しぶりだった。
「私は科学者ではないし、
科学的なことなんてさっぱり
わからないのだけど・・・
これから私が話すことを
信じてもらえるかしら」
桜さんは不安を隠しきれない顔で
僕達を見た。
僕達はお互い顔を見合わせて
確認を取ると、さっきより深く頷いた。
そうすると、てちさんが、
「信じるぞ、話すがよい」
と桜さんに声を掛けた。
僕らもそれぞれ「信じます」と
声を掛けると、
不安からハの字になっていた
桜さんの眉毛が元に戻っていった。
「あの不思議な雷はね、
ん~・・・・・
何て言えばいいのかしら・・・
適切な言葉では
ないのかもしれないけど、
時空の出入口を作り出してくれるの」
「じゃあ、
たまたま井戸に落雷があって
その井戸が時空の出入口に
なったってことですか?」
「そうなるわね・・・・・
・・・そうよねクロ」
桜さんはクロに聞いた。
そうするとクロは桜さんの足下に
座ったまま
(うん、そうだよ。
あの不思議な雷が落ちる時は
必ず前触れがあるから間違いないよ)
雷の前触れ?
僕と鈴本さんと長濱さんは
お互い目を合わせた。
すると織田先輩が、
「で、クロは何て言ったんだ」
と聞いてきた。
あっ、そうだった。
クロの言葉がわかるのは
僕と鈴本さんと長濱さんだけだった。
「ああ、すみません。
クロは、あの不思議な雷が落ちる時は
必ず前触れがある、って言ってます」
「どんな前触れが起こるのか
聞いてみてくれ」
「あっ、はい」
そうすると長濱さんが
クロに近づき聞いた。
「どんな前触れが起きるんですか?」
そうするとクロは
長濱さんに撫でて欲しくなったのか
彼女の足下に行き、
まさしく"猫撫で声"で
(背中撫でてぇ)
と言いやがった。
この野郎っ!! エロ猫がぁぁ・・・
僕はまだ彼女に、長濱さんに
撫でてもらったことなんてないのに・・・
羨ましい・・・実に羨ましい・・・・・
って何言ってるんだ。
落ち着け自分!
こんな時に猫にやきもち焼いて
どうするんだ。
まったく・・・・・
クロは長濱さんに
ひとしきり撫でてもらうと、
(ありがとっ)
と言い、
今度は小林さんの足下に行った。
「ん?撫でて欲しいの?」
小林さんが優しく聞くと、
クロは、ニャ~(当然だ)と
可愛らしく言った。
何て奴だ!?
小林さんがしゃがんで撫でてあげると
クロは話を始めた。
(あの雷が落ちる
ちょうど24時間前に、
逆撫でされたみたいに
毛がブワ~ってなるんだよ)
ブワ~って・・・?
え・・・
それってホント
猫にしかわからない感覚じゃん。
小林さんが、
「私にはミャーミャーとしか
聞こえないけど、
今クロは何て言ったの?」
と聞いたので
今度は鈴本さんが通訳をした。
「あの雷が落ちる24時間前に、
毛を逆撫でされた時みたいに
なるんだってさ。
なんか、毛がブワ~ってなる
って言ってるけど、
猫じゃないからそこらへんは
よくわかんないや。
人間でいうところの
鳥肌立ったみたいな感じかな?」
鈴本さんがそう言うと、クロは
(たぶんそうだと思う。
ボクも人間の感覚は
よくわかんないけど)
と、素っ気なく答えた。
ハァァ・・・
このクロという不思議な黒猫は
ほんと、可愛い顔してなんとやら、
といった感じの奴だ。
なんか可愛げがない。
ん・・・あー
でも見た目が可愛い猫に、
可愛げを求めること自体
偏見なのだろう。きっと。
動物の声は
わからない事に越したことはない。
そんなことを感じながら、
僕はクロの話を聞いていた。
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