僕は今、お花見に来ている。
娘の小さな手には舞い落ちた桜の花びらが
握られている。
後で、押し花とハーバリウムを作るのだ
そうだ。
タイムカプセルを掘りに行った日、
僕と志田はお互いの桜の栞を交換した。
父親が書き残した物を手元に置いておきたい
という気持ちがあったからだ。
僕らの父親達は、僕らが思っている以上に
お互い良い相棒だったようだ。
僕と志田もバディを組むことが多いが、
まだ父達には到底かなわない。
僕らもそのうち何かを交換できたらいいな、
という話をしたが、具体的に何を交換するか
は話さなかった。
まあ、僕らのことだから思いつきで何かを
交換してそうだ。
タイムカプセルを無事掘り出すと、
掘った土を戻し、園の食堂で休憩をした。
北川先生は、懐かしのチョコバナナを
作ってくれていて、喜んでご馳走になった。
少しの間、みんなで現状報告や
たわいのない話で盛り上がった。
北川先生はこれまでずっと、
渡辺部長、菅井課長、守屋補佐と
僕らのことで連絡を取り合っていたらしい。
小・中・高の入学や卒業の時だけではなく、
僕らが訓練生の時、
試験を一発でクリアしたとか、
数年前の特別訓練の後は少し本調子ではない
ようで心配だとか。
そういうことも先生は知っていた。
先生の口からその話を聞いたときは正直
驚いた。
少しばかり過保護すぎる気もしたけれど、
僕らは本当にたくさんの人に支えられて
ここまでこれたんだと実感した。
感謝しかなかった。
帰りのバスでは穴掘りと穴埋めで
疲れて寝てしまい、少し変な夢を見たが、
けして寝覚めの悪い夢ではなかった。
昔の自分も、今の自分も笑顔の夢だった。
少し強めの風が桜並木を通り越して行った。
その風が花びらを舞い上げて、辺り一面が
桜色になり綺麗だった。
娘は片手では足りなくなったようで、
両手で掬うように花びらを持っていた。
ねるはハンカチを出しその花びらを包んだ。
「いっぱい拾ったね」
「うん」
「まだ拾うの?」
「もうちょっと」
娘の集中力はハンパない。
一度集中し出すとしばらく止まらない。
僕とねるは近くのベンチに腰掛けて娘を
見守った。
「誰に似たんだろうねぇ(笑)」
「ねるじゃない(笑)」
「あの集中した時の目力は
てっちゃんだね(笑)」
「目力って(笑)」
「理佐と志田くんも言ってたでしょ、
欅がお絵描きとか絵本に
集中してる時の顔が
てっちゃんだぁって(笑)」
「ははっ(笑)
でも、女の子って父親似だと幸せに
なるっていわない?」
「なんかそういわれてるよねぇ、
なんでだろ?」
「でもさ、欅が幸せでいてくれたら
そういう迷信ぽいの関係ないけどね」
「まあそうだね」
娘は花びらを掬った両手を突き出し
僕らの方へ走ってきたが、
途中で"コテッ"っと転んでしまった。
近くを通りかかった親切なカップルが
心配し、娘に声を掛け立たせてくれた。
僕とねるは急いで駆け寄った。
「あ~ありがとうございます」
「いえ、大丈夫?」
娘は膝を少し擦りむいていた。
カップルの女性の方が絆創膏を差し出して
くれた。
「これ使ってください」
「ありがとうございます」
娘に気を取られていたが、
このカップルの声は聞き覚えがある。
それは向こうも同じみたいで、
「あっ、平手~」
「おっ、森田~、保乃ちゃんも」
森田達は初対面のねるに挨拶した。
ねるも挨拶を済ますと、
改めて娘のことで感謝の言葉を伝えた。
森田は娘の顔を見ると、
「平手そっくりだなぁ」と感慨深そうに
言った。
ドライな会話だけだったが、
それがどこか僕と森田ぽかった。
「保乃さん綺麗な人だね。
昔、付き合ってたりして(笑)」
ホント僕の妻は勘が鋭いんだからっ。
僕は誤魔化そうと思ったけど、
すぐバレると思い正直に話した。
ねるは全然驚かなかったし、
嫌な顔もしなかった。
「実は前に志田くんから
少し話し聞いてたんだよねぇ(笑)。
高熱出した時に見る夢の話しとか。
ちなみに初恋の相手は
欅園の北川先生でしょ(笑)」
志ぃ~田ぁぁ~!あの野郎っっ!!
・・・えっ、
夢の話は去年二人だけの秘密にしよう
って言ってたじゃないかっ!!!
「前って、どのくらい前?」
「ん~とねぇ、同棲始めた頃かなぁ」
「そんな前からぁぁ!?」
どうやら僕の秘密は、
全然秘密ではなかったようだ。
でも秘密から解放された瞬間から
なんとなく気持ちが軽くなった気がした。
だが正直僕としては、
このままでは収まりがつかない。
いずれ理佐さんに志田の高校デビューの話を
してやろうと思った。
そんな幼稚なことを考えていたら、
また風が桜の花びらを盛大に舞い上がらせて
いった。
桜にまつわる僕の記憶が、
少しずつ良い思い出に上書きされて行く
ような感覚だった。
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