正月に休みが取れたのは新婚の時以来
だった。
さっそく届いた年賀状を見ている。
毎年僕がもらう年賀状は2枚。
そして僕が年賀状を出す相手は2人。
1人は中学・高校の同級生だった森田で、
もう1人は児童養護施設欅園の北川園長
先生だ。
森田とは去年、あのダーツバーの案件で
久しぶりに会った。
その後、なかなか予定が合わず
クリスマス前にようやく二人でご飯を
食べに行った。
やはり森田は、僕と保乃ちゃんが
まだ想い合っていると思っていて、
内心そわそわしていたようだ。
だから、僕が結婚していると知って
拍子抜けしたらしい。
現代を生きているにも関わらず、
僕と森田は、プライベートなやり取りは
年賀状でしかしていなかった。
もちろんお互いのアドレスもIDも
知っているのに、それはあくまでも
仕事での利用でしかなかった。
しかも、年賀状の文面がいつも簡潔すぎて
お互いのプライベートのことは全く知らな
かったし、あえて干渉もしなかった。
だから森田は、僕がすでに結婚し娘が
いることを知らなかったし、
僕は森田が保乃ちゃんと付き合っていて
結婚することを知らなかった。
こんなことってあるんだな、
とお互い笑ってしまった。
たまには、仕事以外のやり取りもしようか、
なんて話をしておきながら、
今年の年賀状も二人して潔いくらいシンプル
で簡潔な内容だった。
まあ、こんな関係もわるくない。
欅園の北川園長先生は未だに僕と志田の
ことを気に掛けてくれる。
父と同じ道に進むと決めた時、真っ先に
応援してくれたのは北川先生だった。
北川先生のくれた年賀状には定型文言の
他に綺麗な字でこう書かれていた。
(平手君、お元気ですか。
園にある大きな欅の木の下に
タイムカプセルを埋めたことを
覚えていますか?
欅園の施設は老朽化が進み、
今年の春、全面的に建て直します。
その際、欅の木も一度掘り起こし
別の場所に植え替えなければならなく
なりました。
なので、園の敷地に重機が入る前に
タイムカプセルを掘り起こそうと
考えています。
△月▽日に予定しております。
タイムカプセルの中身は、私が責任を
持って保管しておきますので、
いつでも遊びにきてくださいね。)
タイムカプセルかぁ、
埋めたような気もするけど、
いつ埋めたんだっけ?
小学校に上がる前?上がってから?
記憶が曖昧だった。
タイムカプセルを開ける事は
過去の自分に会いに行くこと。
なんとなくそう思ってしまう。
単純に小さい頃の思い出だと
割り切れない自分がいる。
過去の自分に会ってみたい気もするし、
会わなくてもいいような気もする。
正直、迷っている。
もう少し考えてからと、一旦保留にした。
気が付くと、ねるが隣でみかんを食べ、
娘が僕の脚の間に座り絵本を見ていた。
それに気付かないくらい僕は年賀状と
にらめっこしていたようだ。
娘の欅はクリスマスにサンタさんから
もらった仕掛け絵本に夢中だ。
もう云十回と見ている。
すっかりお気に入りのようだ。
仕掛け絵本は、動物が飛び出てくる物と、
食べ物が飛び出てくる物、
あと年齢的に少し早いかもしれないが
不思議の国のアリスの計3冊を
サンタさんは購入した。
こんなに喜んでくれるとは思わなかった、
とサンタさんが言っていた。
もう一つ娘が希望していたプレゼントは、
(欅ちゃんがもう少し
お姉さんになるまで待っててね!)
とサンタさんから手紙があったらしい。
サンタさんも色々と頑張らねばならない。
色々と。
寝正月もありかなと思っていたが、
天気が良かったので、
急遽、初詣に行くことになった。
神社近くまで行くと、
思った以上に混雑していて、
やっぱり家でおとなしくしているべき
だった、と少し後悔した。
お参りを済ますと、娘は破魔矢に興味を
示した。
が、すぐにその興味は屋台の
チョコバナナに移った。
「欅、あれ食べたいの?」
「あれ、たべものなの?」
「そう、食べ物だよ。
バナナにチョコレートが
かかってるの、食べてみる?」
周りに食べている人を見つけ、
娘はようやくそれが食べ物だという
確証を得たようだ。
「うん、たべたい」
娘が選んだのは、パステルピンクの
ストロベリーチョコレートで
コーティングされ、カラフルな
トッピングのついたチョコバナナだった。
近くのベンチが空いていたので、
娘を座らせた。
初めて食べるチョコバナナは美味しいらしく
顔はニコニコ、口はモグモグといった感じで
食べていた。
こうやって娘の初めてが
増えていくと思うと、
やっぱり寝正月を選択せず、
初詣に来てよかったんだと思える。
娘が美味しそうにチョコバナナを食べる
姿を見ていたら、僕もねるもなんだか
食べたくなって、結局家族三人ベンチに
並んで座ってチョコバナナを食べた。
実は僕、チョコバナナには少しだけ
思い入れがある。
児童養護施設にいた頃、
誕生会やクリスマス会などの行事があると
北川先生が決まってチョコバナナを作って
くれた。
特別な日にだけ食べられる、
特別なおやつだった。
今でもチョコバナナを見るとあの頃の
ワクワク感を思い出す。
それにしても、屋台のチョコバナナは
何故あんなにもカラフルなのだろう。
今までチョコレート色のものしか
食べたことがなかったから、
ちょっと冒険してミントグリーン
のにしてみた。
チョコバナナを食べながら童心に帰った
そんなお正月だった。
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