明日はこども園の運動会だ。
午後3時過ぎ、僕ら三班はこども園に
テント設営の手伝いに来ている。
本来、運動会のテント設営は訓練校の教官・
教官補で構成されている専従班が手伝って
いたが、この前の台風で授業の日程変更が
あったため、何故か僕ら三班が代わりに
手伝うことになった。
運営本部用と救護用、あとは日除け用に
計10張りのテントを設置するようだ。
白い天幕のテントを倉庫から運び出して
設置作業を始めたが、慣れない作業のため
少々手間取った。
なんとか設置すると、今度はライン引きを
お願いされた。
想像以上に難しく僕は悪戦苦闘していたが、
鈴本が上手だったので、半分以上は彼に
お願いした。
鈴本がラインを引いてくれている間、
おなじみの万国国旗を掲げた。
作業が終わる頃には、広い園庭がすでに
運動会の雰囲気に包まれていて、教室にいる
園児たちの楽しそうな声が聞こえた。
娘もその中にいると思うと顔がほころんだ。
テント設営とだけ聞いていたけど、
実際は前日の準備全てを手伝う感じだった。
だけど、最近デスクワーク漬けの日々を
送っていたからいい気分転換になった。
ただ、普段は使わない筋肉を使ったから
筋肉痛は覚悟した方がよさそうだ。
織田班長と小林さんが園の先生たちと共に
用具を倉庫に片付けにいった。
その間に、僕と志田と鈴本は近くのコンビニ
までみんなの分の飲み物を買いに行った。
コンビニから戻ってくると、班長たちはまだ
片付けをしているようで戻ってきていな
かった。
太陽が色とりどりの国旗を鮮やかに照らし、
緩やかな風が園庭を通り抜けていった。
僕らは心地良い疲れのなか班長たちを
待ったが、なかなかこない。
風に乗って笑い声が聞こえた。
園児たちの声ではない、大人の声だ。
その笑い声はどうやら倉庫の方向から
聞こえてくる。
そのうち園児たちが教室から出てきて
倉庫の方を見て、キャッキャと笑い声を
上げ始めた。
僕らは何が起きているのかわからず、
とりあえず倉庫に行ってみることにした。
園児が「やったぁ」とか「かっこいい~」
とか「いいなぁ」とか言っている。
なんのことやら、さっぱりわからない。
倉庫の周りには園児の人垣が出来ていた。
近づいてよくみると、倉庫脇のスペースに
大きな穴が掘られていて人が落ちているよう
に見えた。
「ってかあれって班長じゃね!?」
「もしかして小林さんも!?」
「マジでぇ!?」
穴の中を覗くと、
織田班長が何故か小林さんを
俗に言う"お姫様抱っこ"していた。
小林さんは今のシチュエーションが
恥ずかしいらしく、顔を真っ赤にして
両手で頬を覆っていた。
織田班長は小林さんを抱っこして
耳まで真っ赤になっていた。
どうやら班長が先に穴に落ち、
後から落ちた小林さんを見事キャッチした
ようだ。
滅多にお目にかかれない状況に
僕らは必死に笑いを堪えた。
にしても大きな穴だ。
園児が「やったぁ」って言ってたから
これは落とし穴なのだろうか?
大人二人がすっぽり収まる穴だ。
これを園児が掘ったのかぁ?
まさかね・・・
娘の声が聞こえて横を向くと
「おださんかっこいい~」と言って
手をパチパチ拍手して喜んでいる。
周りにいる子も「おねえさんいいなぁ」とか
「おひめさまだっこ~」とか「おちたぁ~」
とか、この状況に特別驚いてはいない。
(あなほりしたぁ)
数ヶ月前、娘がそんなことを言っていた
記憶が蘇ってきた。
(穴掘りはお砂場でしたの?)
(ん~んちがうよ)
(誰としたの?)
と聞くと結構な人数の名前を挙げていた。
あれから増員した可能性は十分にありうる。
(どこ、穴掘りしたの?)
(うふぅ~おしえな~い)
教えてくれなかったもんね・・・
これ、落とし穴確定だわ。
あれからずっと堀続けたってこと!?
すご~い・・・・・
全園児でやりました、だったりして。
けして褒められる事じゃないけど
その執念に感心してしまった。
この落とし穴事件から、
織田班長と小林さんの
職場での不自然なよそよそしさは
なくなっていった。
妙なぎこちなさがなくなり、
僕らが気を回すことも少なくなった。
僕らが織田班長にするアドバイスよりも、
守屋補佐、理佐さん、ねるが
小林さんにするアドバイスの方が的確で、
余程の事がない限り主導権は半永久的に
小林さんが握る事になるだろう。
まあ当然の結果だ。仕方がない。
この"武士の恋"影の功労者(?)は、
こども園の園児たちだろう。
子供達のイタズラに物の見事に
"ハマった"二人は案外幸せ者なのかも
しれない。
どうやらあの落とし穴は、
本当に、全園児でやりました!!
という代物だった。
こども園からのおたよりに、
園からのお詫びが掲載されていたが、
全親が恐縮してしまい、
今後こども園の黒歴史として
語り継がれそうだとみんな苦笑いだった。
運動会が終わるとだんだんと
秋の色が濃くなっていった。
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