家に着くと玄関がたわみ、床がスポンジに
でもなったかの様な感覚だった。

自分で思っている以上に朦朧としている
ようだ。

なんとか手洗いうがいを済ませ
ソファーに腰掛けた。

買ってきたスポーツドリンクを一口飲んだ。

天を仰ぐと天井が歪んで見えた・・・・・





それからしばらく意識がなかったようだ。


額に冷たい物がくっついている感覚が
気持ち良くて目を開けた。

ねるが心配そうな顔で僕を見ていた。
冷却シートを額に貼ってくれたみたいだ。

どうやら僕はソファーに腰掛けて直ぐに
眠ってしまったらしい。

「てっちゃん大丈夫、
 おかゆ作るけど食べられそう?」

「うん、食べる。お腹は空いた(笑)」

「それはなにより(笑)
 いま準備するからね」

「ありがと」

「おとうしゃん、
 おねつだいじょーぶ」

「うん大丈夫だよ。
 でも欅にお熱うつっちゃうから
 お父さんの側に来ちゃダメだよー」

「えーつまんないー」

「欅、お父さんの言うとおりだよ。
 お熱うつったら
 お遊戯会出られなくなっちゃうよ」

そうだ今週末はお遊戯会だった。
それまでに、なんとしてでも治さなければ。

「おゆうぎかいでたいから
 おとうしゃんのとこいかない」

お父さんのとこ行かない、なんて
風邪引いてない時に言われたら
かなりショックだ。
でも、この状況では仕方ない。

「お父さんもお遊戯会までには
 ちゃんと治すから」

「うん!おゆうぎかいきて~」

娘は有言実行で、僕からだいぶ離れた
場所から来てね~と、手を振ってきた。

僕はスポーツドリンクを飲みながら
手を振り返した。

娘が不思議な動きをしている。
野球の球拾いの様な、チンパンジーの真似
の様な、なんと言えばいいのだろうか、
とにかく奇妙な動きをしていた。
しかも真剣な表情で。

お遊戯会と関係ありそうな予感がした。
親には内緒みたいなのであえて
聞かないことにしよう。


しばらくすると、「できたよー」という
ねるの声が聞こえた。
また少しうつらうつらしていた様だ。

たまご粥を食べ、風邪薬を飲み、
汗をかいていたので
軽くシャワーだけ浴びて、
速攻で寝た。

体はだるくて重いのに、頭だけふわふわと
軽い感じがした。
横になると、重力でどこまでもベッドに沈み
込むような感覚だった。


いつからだろう、

風邪を引いて高熱を出した時は
決まって同じ夢を見る。


桜が満開の季節。
僕と手を繋いだ父がしゃべりだす。

「桜はきれいだな。
 でも、お父さんは葉桜が好きなんだ。
 葉桜になると安心する。

 桜は満開に向かうほど美しいが、
 それと同時に狂気もおびてくる。

 時におどろおどろしくもあり、
 妖艶でもある。

 その様が心をざわつかせる。

 だから葉桜になると
 心のざわつきがおさまる。

 葉桜になると安心するんだ・・・」

父はそう言うとどこか寂しそうに
桜を見上げる。

僕も桜を見上げると
無数の花びらが降ってくる。

そして次の瞬間、父が消えている。

僕は手探りで誰かの手を握る。

園長先生の手だ。大好きだった。
僕の初恋の人。優しい北川先生。
女優さんみたいに
ビックリするほど綺麗な人。

「今日からここがあなたのお家」

「かけっこ速いね」

「菅井のお兄ちゃんと、
 守屋のお姉ちゃんが
 遊びに来てくれたよ」

北川先生が僕の手を離して言った。

「ユリナも中学生ね。早いなぁ・・・」


僕はまた手探りで誰かの手を握る。

この子の顔はいつもぼやけていて
誰かわからない。だけど優しい声。

「ユリ君のこと好き」

「夏休み縁日行こうね」

「しょうがないな、宿題見せてあげる」

僕の手を離して言った。

「転校するの・・・」


僕はまた手探りで誰かの手を握る。

よく見るとそれは人の手ではなく
桜の花びら。

握っていた手を開くと花吹雪になり
水面に散った花びらが
勢いよく流れていく。

僕は葉桜になった桜並木を
ただひたすら一人で歩く。
春から秋へ向かって歩く。
どうやって冬を越えればいい?

蕾も、三分咲きも、五分咲きも、
満開の時も、葉桜になっても、
紅葉した葉っぱも、
僕はどれも綺麗だと思うんだけどな・・・

父さんの言葉の意味を考える。

考えるがいつもわからない。

夢なんだから、深く考えるなと誰かが言う。

そうこれは夢なんだ・・・・・

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