僕らが観覧車のゴンドラに向かって
手を振ると、すぐさま志田のスマホに
メッセージが入った。
「見えたって(笑)」
「ははっ(笑)」
志田が再度スマホを見ると
驚きの声を上げた。
「うわっ、マジで(笑)」
「どうしたぁ?」
「今乗ってるゴンドラ、
あの日理佐が乗ったやつだって(笑)」
観覧車から戻ってきた理佐さんが
言っていた。
あの日、前日のリハーサルで
窓枠を外した時に付いたであろうキズと
当日、ライフルと擦れて付いたキズが
残っていたようだ。
どうやら観覧車は改装中に
外だけ塗り直したらしい。
そのキズに気が付いた人は、
まさかライフルで付いたものだとは
夢にも思わないだろう。
僕らだけが知っている
あの日の思い出の跡が
この遊園地には残っていた。
帰り際、志田に
「グッドラック」と小声で言うと
いつになく緊張した様子で
「おう」と返事が返ってきた。
ねるはその様子を見ていたようで
帰りの車の中で聞いてきた。
「さっき志田くんに
グッドラックって言ってたけど
もしかして、もしかする?」
僕の妻はなんて勘が鋭いのでしょう。
「はい、そうです(笑)。
よくわかったねぇ~」
「わかるよ~(笑)。
理佐も薄々感づいてるね、
あれは(笑)」
そういうものなの?
「志田、いざとなったら
緊張してるみたいだったけど
大丈夫だよね?」
「理佐次第じゃない(笑)」
「えっ・・・」
どうやら僕はかなり心配そうな顔を
していたようで、
ねるが慌てて、
「大丈夫、大丈夫!
理佐は志田くんにベタ惚れだから」
「うん、うまくいくよね」
僕の真に受けやすい性格は時に
妻を慌てさせるようだ。
「ごめん(笑)。
また真に受けちゃった」
「ほんとだよ(笑)。
しょんぼりするから
慌てちゃったじゃない(笑)」
「ごめん(笑)」
「てっちゃんは優しすぎだよ」
「そうかな?」
「そういうとこ好きだけどねぇ(笑)」
ねるは遊び疲れて寝ている娘の頭を
撫でながら、僕が赤面するようなことを
からかうようにさらっと言った。
「あのさ・・・」
「うん」
「今日の夜、僕の話聞いてくれる?」
「・・・うん」
今度はねるが心配そうな顔で
ミラー越しに僕を見ている。
「ちゃんと話してなかったから・・・
父親のこととか、施設のこと・・・
だから聞いて欲しいなと思って」
「うん聞きたい」
ミラー越しのねるが優しく微笑んだ。
「・・・ありがと」
僕はそう言うと運転に集中した。
家に帰ると夕飯前に遊び疲れて
眠ってしまった娘を起こした。
起こすとぐずるかと思ったが、
そんなことはなく、
むしろ今日の興奮が蘇ってきたようで
元気いっぱいごきげんだった。
元気すぎて正直大変だった。
夕飯を食べさせ、お風呂に入り、
歯磨きをさせ、寝かしつける頃に
ようやく大人しくなった。
電池が切れたようにパタリと寝た。
それがとても可愛くて面白かった。
一息つくと僕は、この前資料室で見つけた
広報誌を持ってきてねるに話を始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー