志田はというと、あの日、
パフェの試食会には行かなかった。

せっかく理佐さんが
迎えに来てくれたのに、
あいつは寝ていた。

何度ドアチャイムを鳴らしても、
ドアを叩いても、
これでもかとメッセージを送っても、
起きなかった。

志田は、夜中に目が覚めたらしい。
スマホには僕からイタズラとも思える
大量のメッセージが入っていて
驚いたようだ。
しばらくの間、起きれなかった自分を
呪っていたらしい(笑)。

そういうわけで、試食会には
僕とねるの二人だけで行った。

理佐さんも誘ったが
気を利かせてくれたようだった。
でもたぶんあの時から、
理佐さんは志田と行きたかったんだ
と僕は思う。

その後、僕とねるが同棲を始めた頃、
志田と理佐さんがようやく付き合い始めた。

以外に奥手な者同士だった二人は、
進展するのに思いの外時間が掛かった。

でも、いま理佐さんのお腹には
新たな命が宿っている。

秋が深まった頃に出産予定だという。
女の子だそうだ。
志田が緩みまくった顔で教えてくれた。

名前もすでに決めていて"櫻"と
命名するようだ。

欅ちゃんと櫻ちゃん、
なんか姉妹みたいだ。


志田と理佐さん以上に
進展が遅いカップルがいる。

織田班長と小林さんだ。

織田班長は、
普段仕事では頼りがいのある人だが、
こと恋愛においては完全にヘタレだった。

あまりのヘタレ具合に呆れて、
小林さんが酔っぱらいくだを巻くほどだ。
時に狂犬と化すが、普段は冷静沈着な
彼女がベロベロになったのは新鮮だった。
にしても、あの時は大変だった・・・(笑)

そういうこともあり、だれがどう見ても
主導権は完全に小林さんが握っている。

今年に入りようやく同棲に漕ぎ着けた
ようだ。
班長頑張って!


鈴本は相変わらず淡々としている。
しかし、付き合っている彼女が
他班の技官として配属された時は、
気が気ではなかったようで、
やたらとパタパタと忙しなかった。
今はだいぶ落ち着いた。


今泉さんは1年前からアメリカの
科学捜査研究所に出向している。
再来年から本部に復職する。
それまでの間、今泉さんが抜けた穴は
専従班が持ち回りで埋めてくれている。

まあ、僕らの近況はこんなところだ。


ようやく休憩時間になった。
僕と志田は木陰で見ていた妻達の元へ
行き、へなへなと倒れ込んだ。

「ちょっとー、
 しっかりしてマナカァ(笑)」

「理~佐ぁ~、癒してぇぇ」

「てっちゃん大丈夫ぅ(笑)」

「大丈夫じゃない・・・うへっっ」

欅が首に容赦なく巻き付いてきた。
この馬鹿力は誰に似たんだ。

「おと~さん、くさぁ~い」

うおっっ・・・
娘の一言でよれよれの僕は撃沈した。
そういう事は、中学生くらいになって
から言うもんだと思っていた。
娘よ、今言うのかぁぁぁぁぁ・・・・・
 
「あっ、おと~さんごめ~ん。
 くさくない、くさくない」

「てっちゃん、
 いじけない、いじけない(笑)」

「うぅぅ、ねる~」

実質今は、ねるも"てっちゃん"なのだが
未だに僕の事を"てっちゃん"と呼ぶ。
まあ、嫌ではない。
名前で呼ばれた時の高揚感がたまらない。

そんな僕らを見て、
志田と理佐さんは笑った。

「(笑)・・・あーでも、俺もいずれ
 櫻に臭いって言われんのかぁ・・・」

「気が早いから(笑)」

志田よ、その時は共に撃沈しよう・・・

「休憩終了~。
 お前ら~、これも仕事だぁ~。
 木陰でイチャイチャしてんじゃねぇ~」

織田班長がメガホンで叫んでくる。

嗚呼~もう帰りたい。

「ほらっ、頑張って!!」

僕らは、妻に活を入れられ、
またグラウンドへと戻った。

「志田、これからもよろしくなっ」

「どうした急に(笑)」

「いや、なんとなく(笑)」

「おう、よろしく!!」

僕らは"あの時"みたいに
グータッチした。





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皆さんはご存じだろうか。

事件や騒動を表沙汰にせず
処理している組織があることを。

その組織は、秘密情報部という。
組織は"地獄の訓練"を受けた強者揃い。
今日も汗を流し人知れず働いている。

その組織の存在を知る者たちからは
何故か、
"国の子犬=PUPPY(パピー)”
と呼ばれている。




閑静な高級住宅地の一角に
一台の車が止まった。

その車には"お掃除PUPPY"と
書かれている。
どこかの清掃会社の車だろう。
車からお揃いの作業服を着た
清掃員が4人降りてきて
インターフォンを鳴らした。



ーーーーーーおしまいーーーーーー 
  
PUPPYをお読みくださり
ありがとうごさいました。