"娘を守ってほしい"
坂尾議員の依頼は隠し子である娘二人の
身辺警護だった。
民間会社に警護を依頼する手もあったが、
来年総裁選を控えているため
万が一があってはならない。
脅迫文の差出人の心当たりもない。
それでパピーに頼ったということらしい。
こういう依頼は珍しくない。
守るにしてもある程度脅迫文の差出人を
特定する必要があるが、
今のところ難航している。
けれどもあれから準備は早急に進んだ。
調査対象者である長濱ねると渡邉理佐の
行動範囲・生活パターンを調べ、
監視カメラやマイクを仕掛けた。
その間にも、気づかれないよう
毎日のように交代で尾行し、
マンションの正面向かいにある駐車場で
車中泊をしながら監視した。
この短期間でどうやって言いくるめたのかは
知らないが、
彼女たちが同居する部屋の隣の部屋を
空けてもらったようだ。
今日から志田と僕が兄弟になりすまして、
しばらくの間そこで住み込みで調査・監視
することになった。
僕らが今ここで見張っている間、
織田班長と小林さんが代わりに
引っ越しをしてくれている。
スマホにメッセージが来た。
小林さんからだ。
(引っ越し完了。
調査対象に動きがなければ
そこで待ってて。今すぐ鍵持ってく)
(了解。特に動き無し)
「今、小林さん来るってさ」
「あー、了解。ってもう来たし」
スマホから目を離すと小林さんが
涼しげな顔で立っていた。
「先輩テレポートできるんすね」
「僕にも教えてくださいよ、テレポート」
「はいはい、くだらないこと言ってないで、
これ鍵だから、ひとりづつ持ってて」
礼を言って鍵を受け取ると話をつづけた。
「一応いつも通り必要最低限の物は部屋に
置いてきたから。
冷蔵庫にも多少食料は詰めといた。
資料はテーブルの上ね。
あと、渡辺部長から大量のパン差し入れて
もらったから」
「それと、はいこれっ」
と言って小林さんがスマホで動画を
見せてきた。
「二人ともがんばってね。フフフ」
映像の中の渡辺部長が手を振っていた。
えっ、それだけ?部長らしいけど。
「そういうことだから、がんばってぇ~。
イケメン兄弟!」
部長の真似をして手を振りながら
小林さんは去っていった。
「そういうことって、どうゆうこと?」
「ほんと、わかんねーわ」
笑いながら僕らはまた双眼鏡を手にした。
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