「こっちが6日前、
 こっちが2日前にきたものです」


その中には、新聞や週刊誌を切り貼りした
脅迫文が入っていた。


6日前のものには、

 わたし は 知って いる
      
 誰も が 知る ことに なる

 汚 ら わ しい 奴 め

 愛人 の 子 たちを 殺す

 いい 気味 だ

 死ぬ ほど 苦し め

 天 罰 だ     



2日前のものには、

 わたし が 貴 様 の 隠し 子

 を 殺 す

 見せ 物 に して やる

 天 罰 だ 


とあった。


殺されたくなければ金をよこせ、 
と言うようなステレオタイプな文言は無い。
金銭がらみではなく、怨恨だろうか。

それにしても、ここまで細かい切り抜きは
決して精神衛生上よろしくないだろう。
差出人はよほど執念深い人物のようだ。


「私は政治家ですから、知らないうちに
 人から恨みはかっているのかも
 しれません。
 ですが、隠し子のことは表沙汰にならない
 よう万全を期してきました。
 だからどうしてもイタズラだとは
 思えないんです」


「では、なんらかの形で
 情報が漏れたということでしょうか?」

班長が問いただす。


「わかりません。心当たりがないんですよ。
 それで、あなた方に来てもらったんです」

焦りからか声が大きくなった坂尾氏は、
自身を落ち着かせるために深呼吸をして
話をつづけた。


「3年前に妻に先立たれまして、
 亡くなって半年ほどしてから
 息子の翔と娘の上(あがる)に
 隠し子のことを打ち明けました」


「では、隠し子の存在を知っているのは、
 貴方を除いて2人だけということ
 ですか?」


「はい、そういうことになります」


えっ、それってもう、
息子か娘が怪しいんじゃないの?


坂尾氏がその空気を察し話をつづけた。


「身内をかばうような言い方ですが、
 息子は1ヶ月ほどアメリカに行って
 いました。帰国したのは昨日です」


「ご旅行ですか?」


坂尾氏の息子・翔に班長が訪ねる。


「妹のところに行っていました。
 妹はアメリカの大学に通っているので、
 年に数回遊びに行くんです」


そう翔が言うと、間髪入れず坂尾氏が
話をしてきた。

「なので、息子と娘が
 この脅迫文を出すのは不可能なんです。
 直接郵便受けに入れられていたもの
 なので」


織田班長は手袋をはめ、
封筒に消印が無いことを確認し、
僕らにもそれを見せた。



予想は外れた。

そんなに上手くはいかないよな。



「理佐とねるは本当に優しい良い子たち
 なんです。母親思いですし、
 こんな私のことまで気にかけてくれて
 二人で誕生日プレゼントまでくれるん
 です」


緊張した面持ちから一変し
顔をほころばせて話す坂尾氏。
やはり父親だ。


「そういうことは、お嬢さん達とは
 お会いになることがあるんですね」

織田班長が聞いた。


「そうですね。年に1回ほど
 行きつけの料亭で。
 セキュリティが万全なところなので。
 当然お忍びになりますが」


お忍びとは言え、
綺麗でかわいい実の娘二人とのデートは
さぞや楽しかろう。

つい心の中で悪態をついてしまった。


「では、今回のご依頼は脅迫文の差出人を
 突き止め、隠し子の情報の出所を探る
 ことでよろしいですか?」


坂尾氏は首を横に振り言った。



「あの子たちを、
 私の娘を守ってくれないだろうか」





これが一週間前の依頼だ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー