雪の夜の思い出
いやあ寒いと思ったら雪になるなんて。
でもさすがにこれが最後の雪かな。
雨になってきちゃったから、
朝までは残ってないかもなぁ。
犬が狂ったように喜ぶから、積もってほしいんだけど。
しばらくは外での取材もないから、思う存分積もっていいぞ(笑)
でも、雪って、犬だけじゃなくて、人も狂わせることがある。
あれは、中学生のころ、いや高校生のころだったか。
できれば、まだ中学生のころだったと思いたい。
あの日も、今日みたいに夕方すぎから雪が降った。
今日とは違って、夜になっても雨にならず、雪はしんしんと降り続けていた。
当時、実家でも犬を飼っていた。
コリーと柴犬のハーフという、何だかよくわからない雑種で、ラッキーという名前だった。
そして、夜にラッキーを散歩に連れて行くのが僕の日課だった。
散歩といっても、なんせ僕も犬も体力が有り余っている年ごろ。
玄関を出るや全力疾走。2~3kmをほぼ走りっぱなしで、
それは散歩というよりトレーニングみたいなものだった。
僕はボクシング漫画の「がんばれ元気」が好きだったので、
電信柱ごとにダッシュして、シャドーボクシングなんかしてた。若かったなぁ。
そう、若かった。
その日は、初めのうちはみぞれまじりの雪がひどかったので、散歩には行かないつもりだった。
でも、次第にちゃんとした雪になって、しかもボタン雪じゃなくて、さらさらした粉雪だったので、
何だか雪の中を歩いてみたくなった。
そこで、0時近かったけれど、ラッキーを散歩に連れて行くことにした。
実家は、平和公園の近くにあった(今もあるけど)。
名古屋の人は知っていると思うけれど、
公園といっても、柵に囲まれた普通の公園じゃなくて、
中には車道も走っているし、
大規模な霊園の他に、広場や池、森や林もある広大な場所だ。
僕とラッキーは、平和公園へ向かった。
住宅街の中は走っていたが、
平和公園のエリア内へ差しかかるころには、いつしか歩きに変わっていた。
なぜなら、そこはまるで別世界のようだったから。
深夜の公園は、もちろん見渡す限り誰一人いない。
聞こえるのは、雪が舞うかすかな音だけ。
雪に吸収されてしまうのか、それ以外の音がまったく感じられず、
あまりに無音なので、耳鳴りがしているように感じるほど。
公園内は街灯もまばらなので、
本来なら真っ暗なはずなのに、
雪明かりのおかげで、景色がぼうっと白く浮き上がっている。
まるで夢の中にいるようで、僕は何だかドキドキしていた。
僕とラッキーは、霊園を抜けて、当時新しく作られた噴水広場のほうへと向かっていった。
霊園は、あまりに開放的で広いので、怖さはない。
ましてや、雪にうっすらと覆い隠されている。
広場の入り口に着くと、そこで見た光景はさらに僕の気持ちを高揚させた。
広場のまんなかには、丸い噴水池があって、そこから4方向に道があって、
四つの入り口につながっている。
それ以外の部分は、植え込みに囲まれた芝生のスペースだ。
雪が舞い降りる中、真っ暗闇の中に浮かぶ白い広場は、
まるで僕のために用意されたステージのようだった。
噴水池へとのびる道は、花道だ。
その光景を見て、僕はアレをやってみたくなった。
アレっていうのは、あれですよ、あれ!
ホラ、よくロックのライブやミュージカルのステージで、
パフォーマーが走ってきて、ヒザ立ちしてシューッとすべるやつ。
あれやったら、ぜったい気持ちいいぞ!
で、頭に浮かぶやいなや、僕はラッキーのリードを手にしたまま、助走に入っていた。
走るのが大好きなラッキーも、待ってましたとばかりに喜んで走り出す。
そして、もう一方の手を高く天にさしのべながら、僕は勢いよくヒザからすべりこんだ…。
ザッシ。
……。あ、あれ?
僕は、一瞬、何が起こったのか理解できないでいた。
数メートル先に行っているはずのカラダがここにあるのはなぜ?
しかし、すぐにヒザの痛みでハッと我に返った。
うぉおおお、いてぇ…。
そう、積もっているといっても、雪の厚さは数センチ。
その下はザラザラしたコンクリートのタイルなのだ。
そんなとこですべったら、ヒザすりむくにきまっとるがや!(名古屋弁)
ジーパンの両ヒザには、まぁるい穴があき、
その下のヒザからは血がにじんでいた。
ラッキーは、そんな僕を見ながら
(どうして走るのやめちゃったの?)
といいたげな、キョトンとした顔をしている。
誰も見ていないのにもかかわらず、死にたくなるような恥ずかしさでボーゼンとしている僕の上に、雪は降り続けた…。
家に帰ると、母親が僕の両脚を見て、驚いて訊ねた。
「あんた、それいったいどうしたの?」
「いや、ちょっと転んじゃってさ…」
「あらまぁ。それにしても、よくそんな両脚そろってきれいに丸くすりむけるものねぇ」
「……」
その時ほど、母親を疎ましく思ったことはなかったっす。
今でも、夜に降る雪を見ると、このアホアホな経験を思い出す。
あれは、いったい何だったんだ。
いや、だから、雪っていうか、
現実ばなれした状況に置かれると、
時として人は、判断力を失うほどハイになっちゃうってことなんですよ。
あの場所にいたら、みんなもヒザからすべっちゃっているはずだ!
…たぶん。
でもさすがにこれが最後の雪かな。
雨になってきちゃったから、
朝までは残ってないかもなぁ。
犬が狂ったように喜ぶから、積もってほしいんだけど。
しばらくは外での取材もないから、思う存分積もっていいぞ(笑)
でも、雪って、犬だけじゃなくて、人も狂わせることがある。
あれは、中学生のころ、いや高校生のころだったか。
できれば、まだ中学生のころだったと思いたい。
あの日も、今日みたいに夕方すぎから雪が降った。
今日とは違って、夜になっても雨にならず、雪はしんしんと降り続けていた。
当時、実家でも犬を飼っていた。
コリーと柴犬のハーフという、何だかよくわからない雑種で、ラッキーという名前だった。
そして、夜にラッキーを散歩に連れて行くのが僕の日課だった。
散歩といっても、なんせ僕も犬も体力が有り余っている年ごろ。
玄関を出るや全力疾走。2~3kmをほぼ走りっぱなしで、
それは散歩というよりトレーニングみたいなものだった。
僕はボクシング漫画の「がんばれ元気」が好きだったので、
電信柱ごとにダッシュして、シャドーボクシングなんかしてた。若かったなぁ。
そう、若かった。
その日は、初めのうちはみぞれまじりの雪がひどかったので、散歩には行かないつもりだった。
でも、次第にちゃんとした雪になって、しかもボタン雪じゃなくて、さらさらした粉雪だったので、
何だか雪の中を歩いてみたくなった。
そこで、0時近かったけれど、ラッキーを散歩に連れて行くことにした。
実家は、平和公園の近くにあった(今もあるけど)。
名古屋の人は知っていると思うけれど、
公園といっても、柵に囲まれた普通の公園じゃなくて、
中には車道も走っているし、
大規模な霊園の他に、広場や池、森や林もある広大な場所だ。
僕とラッキーは、平和公園へ向かった。
住宅街の中は走っていたが、
平和公園のエリア内へ差しかかるころには、いつしか歩きに変わっていた。
なぜなら、そこはまるで別世界のようだったから。
深夜の公園は、もちろん見渡す限り誰一人いない。
聞こえるのは、雪が舞うかすかな音だけ。
雪に吸収されてしまうのか、それ以外の音がまったく感じられず、
あまりに無音なので、耳鳴りがしているように感じるほど。
公園内は街灯もまばらなので、
本来なら真っ暗なはずなのに、
雪明かりのおかげで、景色がぼうっと白く浮き上がっている。
まるで夢の中にいるようで、僕は何だかドキドキしていた。
僕とラッキーは、霊園を抜けて、当時新しく作られた噴水広場のほうへと向かっていった。
霊園は、あまりに開放的で広いので、怖さはない。
ましてや、雪にうっすらと覆い隠されている。
広場の入り口に着くと、そこで見た光景はさらに僕の気持ちを高揚させた。
広場のまんなかには、丸い噴水池があって、そこから4方向に道があって、
四つの入り口につながっている。
それ以外の部分は、植え込みに囲まれた芝生のスペースだ。
雪が舞い降りる中、真っ暗闇の中に浮かぶ白い広場は、
まるで僕のために用意されたステージのようだった。
噴水池へとのびる道は、花道だ。
その光景を見て、僕はアレをやってみたくなった。
アレっていうのは、あれですよ、あれ!
ホラ、よくロックのライブやミュージカルのステージで、
パフォーマーが走ってきて、ヒザ立ちしてシューッとすべるやつ。
あれやったら、ぜったい気持ちいいぞ!
で、頭に浮かぶやいなや、僕はラッキーのリードを手にしたまま、助走に入っていた。
走るのが大好きなラッキーも、待ってましたとばかりに喜んで走り出す。
そして、もう一方の手を高く天にさしのべながら、僕は勢いよくヒザからすべりこんだ…。
ザッシ。
……。あ、あれ?
僕は、一瞬、何が起こったのか理解できないでいた。
数メートル先に行っているはずのカラダがここにあるのはなぜ?
しかし、すぐにヒザの痛みでハッと我に返った。
うぉおおお、いてぇ…。
そう、積もっているといっても、雪の厚さは数センチ。
その下はザラザラしたコンクリートのタイルなのだ。
そんなとこですべったら、ヒザすりむくにきまっとるがや!(名古屋弁)
ジーパンの両ヒザには、まぁるい穴があき、
その下のヒザからは血がにじんでいた。
ラッキーは、そんな僕を見ながら
(どうして走るのやめちゃったの?)
といいたげな、キョトンとした顔をしている。
誰も見ていないのにもかかわらず、死にたくなるような恥ずかしさでボーゼンとしている僕の上に、雪は降り続けた…。
家に帰ると、母親が僕の両脚を見て、驚いて訊ねた。
「あんた、それいったいどうしたの?」
「いや、ちょっと転んじゃってさ…」
「あらまぁ。それにしても、よくそんな両脚そろってきれいに丸くすりむけるものねぇ」
「……」
その時ほど、母親を疎ましく思ったことはなかったっす。
今でも、夜に降る雪を見ると、このアホアホな経験を思い出す。
あれは、いったい何だったんだ。
いや、だから、雪っていうか、
現実ばなれした状況に置かれると、
時として人は、判断力を失うほどハイになっちゃうってことなんですよ。
あの場所にいたら、みんなもヒザからすべっちゃっているはずだ!
…たぶん。