レマルク 『西部戦線異状なし』 | 東海雜記

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主に読書日記

戦争は全ての人生を踏みにじってゆく


著者: レマルク, 秦 豊吉
タイトル: 西部戦線異状なし
人間、生れ落ちる時代と場所は選べません。
特に戦争のような非常時には何歳であったかが生命を左右する場合があります。

私の母方の祖父は壮年、働き盛りでしたが、警察官であったため兵隊にならずにすみました。
祖母の兄弟は多くが兵隊に取られ、中国大陸や太平洋で亡くなりました。
母は学校に上がる前で家族とともに岐阜県の関市の親類を頼り疎開しました。
伯父は国民学校(小学校)の生徒、「小国民」でした。
一番上の伯父は高校生でした。

小学生は集団疎開
中学生、女学生は勤労奉仕
大学生は学徒出陣

歴史というにはまだ生々しい、どこの家庭でもあったことです。

本書は第一次世界大戦のドイツの青年パウル・ボイメルが主人公。
幼い頃テレビの「コンバット」が好きだった私にとって戦争とは第2次世界大戦であり、アメリカが正義でナチスは悪でした(ベトナム戦争は進行形で、子どもの私にとっては難しすぎました)。
ですから第一次大戦の、しかもドイツから見た戦争の小説が出てたなんてとびっくりしたのを今でも覚えています。

主人公パウルは学生でした。理想に燃え、未来を信じ、夢見ていました。それゆえに教師のアジに魅了され、志願兵として西部戦線に向かうのですが。。。

実際に第一次大戦に従軍しただけに、一兵卒の日常をリアルに描いています。過剰な描写はありません。現実を知る者の強み。
ですがこれは戦争の物語、そこここに悲惨な描写が目に付きます。

戦争によって多くの人生が捻じ曲げられてしまいました。
パウルも勉学を忘れ、野卑な兵士として塹壕の中を走り、最後には死んでゆきます。
彼がもっと年をとっていたなら、彼には守るべき多くのものができ、違った意味で戦争の非条理を感じたでしょう。
もっと若かったなら、戦争末期に徴兵され、より純粋に国家のプロパガンダに踊らされながら死んでしまったでしょう。

彼がもし生きながらえていてももう理想に燃え、未来を信じていた青年には戻れなかったでしょう。

志願兵パウル・ボイメル君も、ついに1918年の10月に戦死した。その日は全戦線にわたって、きわめて穏やかで静かで、指令報告は『西部戦線異状なし。報告すべき件なし』という文句に尽きているくらいであった。




タイトル: 西部戦線異状なし 完全オリジナル版

1930年に映画化され、アカデミー賞を受賞。反戦映画の古典として今見ても決して色あせることありません。
上で紹介したラストシーン、映画ではそのラストを見事にアレンジ。ラストシーンだけでもすばらしい映画として人々の記憶に残るでしょう。