黒崎 緑 『しゃべくり探偵』シリーズ | 東海雜記

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主に読書日記

ボケとツッコミはミステリの基本???


著者: 黒崎 緑
タイトル: しゃべくり探偵―ボケ・ホームズとツッコミ・ワトソンの冒険



著者: 黒崎 緑
タイトル: しゃべくり探偵の四季―ボケ・ホームズとツッコミ・ワトソンの新冒険




大阪弁変換、なかなか楽しませてもらってます。
もちろん、機械のことですから、ちぐはぐなところもあるのでしょうし、
「こんなん、大阪弁ちゃうわ!」
と言いたくなる箇所もあるんでしょう。
でも、いかにも「らしい」のです。
私がスキーで知り合った東京の方のように他地域の人間(私も名古屋人なので他地域です)は大阪弁を聞くとある種の期待をしてしまうのでしょう。
「ほら、今にボケるで」
「そこでツッコミが入るんちゃうか」
なんて。

思えばミステリもボケとツッコミがありますよね。
犯人はたいてい犯行を認めない、つまりとぼける。ドラマなんかで下手な芝居だと「コントやっとんのか」と突っ込みたくなるようなボケぶり。
たいして探偵はツッコミ。
あるいはワトスン役と探偵もボケ、ツッコミの関係かも。

黒崎緑さんの描くしゃべくり探偵はかなり異色のミステリです。
副題にもあるとおり「ボケ・ホームズ」の東淀川大学保住純一君と「ツッコミ・ワトソン」の和戸晋平君(これまた笑える、ベタなネーミングですね)のやりとりがそのままミステリになってしまっう、ユニークな作品。
保住君は和戸君や周囲の人から事件のあらましを聞き、それがけで解決してしまう、切れ者の「安楽椅子探偵」。
って言葉がぜんぜん似合わない、ボケっぷり(でも推理力は確か)。徹底的に読者と会い方をおちょくってます。
例えばこんな具合

「しつこう言わんかて、おれかってイギリスくらい知ってるわいな。秋になったらギ~ッチョン、ギ~ッチョン、って鳴く虫のことやろう」
「それはキリギリスや。俺の言うてるんはイギリスや。大英帝国や」
「ああ、中内功社長率いるスーパーマーケットやな」
「それはダイエー帝国や。おれが言うてるのは、グレート・ブリテンのことや」
「新しいプロレスラーかいな」
・・・・・・
(『しゃべくり探偵』「その一 番犬騒動」)

こんなやりとりが満載。「早く物語進めんかい!」と思いながらも笑いをこらえるのが一苦労です。私はこの手のベタなギャグはたまらんもので。

第1作目の『しゃべくり探偵』では先ほど引用した「番犬騒動」をはじめ4作が収められています。4つの短編でありながら全体で大きな(といってもしょーもない)謎が解明される仕組みになっています。
内容もバラエティに富んでいます。
のっけから会話だけで解決へと進んでしまう「番犬騒動」で読者の肝を抜かしますが、その後は会話だけでなく、手紙のやり取りのみ、電話のやり取りのみ、と変化を加えながらも「ボケ・ツッコミ」を貫き通します。

第2作の『しゃべくり探偵の四季』も然り。こちらは春夏秋冬さまざまな場所、そして和戸君にとどまらずさまざまな相手とボケ・ツッコミをしながら事件を解決していきます。


ものすごく個人的な感想ですが、学生時代を大坂(吹田)で過ごした私にとって、限りなく懐かしさを感じさせる作品です。
能天気な学生生活を送りつつも、時には憤ったり、悩んだり。そんな折でも軽妙な言葉のやり取りが交えられ、明るさを失わない、そんな日々でした。
ウン十年前のことですので美化されていますが。