(問いかけ)

私は、将来のためにためられない社会になっているのだろうと思っている、特に小泉政権以降の雇用者の非正規化拡大は、若者の賃金を削って、結果的に、企業は投資と内部留保に振り向けている。企業の利益は上がっているが、全然若い人たちの賃金に回っていない。最も大きな問題だろうと思うのだが、若い人たちが全然それを言わないから、分からなくなってしまっている。

 

(AI)

 

ご指摘の考えを裏付ける、重要な統計があります。特に注目したいのは、内閣府が2025年の『経済財政白書』で分析した、企業の利益と賃金・投資の関係です。

1. 企業の利益は増えた。しかし、その利益はどこへ行ったのか

内閣府「令和7年度 経済財政白書」

2倍超

2023年度の税引前当期純利益

2006年度との比較

+67%

社内留保の増加

同期間の増加率

同白書によると、2006年度から2023年度にかけて、税引前当期純利益は117%増加。内訳では、社内留保が67%増、配当金支払額が40%増、法人税等の支払額が10%増でした。

内閣府

この数字は、あなたの問題意識と重なる部分が大きいと思います。

企業が利益を増やしても、その増加分が従業員の給与に同じ割合で還元されるとは限りません。企業は賃金以外にも、内部留保、配当、設備投資、借入金の返済などに資金を振り向けるからです。

ただし、ここは一つ区別しておきたい点があります。内部留保は、企業が現金をそのまま金庫に積み上げているという意味ではありません。 会計上、過去の利益のうち社内に残った累積額であり、現金のほか、設備や有価証券などの資産に姿を変えている場合もあります。

それでも、企業部門の利益が大きく増えた一方で、賃金の伸びが長く停滞してきたという問題は、政府自身の白書でも指摘されています。

厚生労働省+1

2. 小泉政権以降の非正規雇用の拡大は、どれほど影響したのか

ここも、数字で見るとかなりはっきりします。

日本の非正規雇用者の割合

 

2002年 2005年 2010年    2015年    2019年     2020年     2023年     2025年

29.4%  32.6%     34.4%      37.5%      38.3%      37.2%       37.1%       36.5%

 

役員を除く雇用者に占める割合。総務省統計の年次データ。

出典:総務省「労働力調査」、政府統計の総合窓口・統計ダッシュボード。

Time Series Tables+1

2002年には29.4%だった非正規雇用の割合が、2019年には38.3%まで上がっています。およそ17年間で9ポイント近い上昇です。

小泉政権期は、この変化を考えるうえで重要な時期です。ただし、非正規雇用の拡大は小泉政権だけが原因ではありません。1990年代のバブル崩壊後の長期不況、企業の人件費抑制、産業構造の変化、女性や高齢者の就労拡大なども影響しています。

また、非正規雇用の人がすべて不本意にその働き方を選んでいるわけではありません。2024年には、正規雇用の仕事がないため非正規で働いている人の割合は、非正規雇用者全体の8.7%でした。

厚生労働省+1

それでも、雇用形態によって賃金や雇用の安定性に差が生まれ、若い時期から貯蓄や職業能力の形成に影響が及ぶという問題は残ります。

3. では、なぜ若い人たちは声を上げないのか

ここが、あなたの疑問の核心ですね。

若者が不満を持っていないとは限りません。私は、少なくとも次のような事情が考えられると思います。

  • 問題を個人の責任として受け止めやすい。 給料が低いのは自分の能力や努力が足りないからだと考え、雇用制度や企業の利益配分の問題として捉えにくい。

  • 職場で声を上げることのリスクがある。 契約更新や職場の人間関係を気にして、賃金や待遇への不満を表明しにくい場合があります。

  • 労働組合との接点が薄い。 JILPTが2025年に紹介した調査では、20代の労働組合加入率は28.5%でした。自分の職場に組合があるか、加入しているか分からない若者も少なくありません。

  • 政治への要求がまとまりにくい。 非正規雇用、奨学金、住宅費、子育てなど、困っている問題が人によって違い、共通の要求としてまとまりにくいことも考えられます。

ただし、これらは考えられる説明であり、若者が実際に何を考えているかを一つの理由だけで説明することはできません。

4. 私は「若者が声を上げないこと」より、声が賃金に届く仕組みが弱いことも重要だと思います

企業の利益が増えても、それだけで賃金が自動的に上がるわけではありません。

賃金は、労働市場の需給、労働組合の交渉力、企業の経営判断、最低賃金や雇用制度などによって決まります。

だからこそ、企業の利益が増えたときに、従業員の賃金、将来への投資、配当、内部留保へどのように配分するのか。それを社会全体で議論できる仕組みが重要になります。

 

そして、ここには一つ大きな経済的な問題があります。

 

賃金が抑えられれば、企業は利益を確保しやすくなります。しかし、多くの人の賃金が伸びなければ、国内で商品やサービスを買う力も弱くなります。

企業が個別に人件費を抑えることは合理的に見えても、社会全体では消費が伸びず、企業自身の売上を伸ばしにくくなる。これは、個々の企業の合理性と経済全体の利益が一致しない問題です。

もっとも、企業の利益を賃金に回すだけですべてが解決するわけではありません。中小企業には利益が少なく賃上げが難しい企業もあり、生産性の向上、価格転嫁、設備投資、人材育成なども必要です。

私は、あなたが指摘されている問題を、単に「若者の消費行動」の問題として見るのは不十分だと思います。若者が趣味を楽しむことを責めるよりも、普通に働いて得た収入で、今の生活を楽しみながら将来への備えもできる社会になっているかを問う方が、本質に近いのではないでしょうか。

そして、もう一つ考えたいことがあります。

若者が自分たちの賃金や雇用の問題を十分に声にできないのだとすれば、労働組合や政党、メディアなど、社会の側がその問題を言葉にし、政策につなげる役割を果たせているのか、という問いも出てきます。

この点を考えるうえでは、小泉政権以降の雇用政策を振り返るだけでなく、企業の利益が増えたのに賃金が伸びなかった仕組みを、もう少し具体的に検証することが重要だと思います。

 

(続く)