私たちが住んでいるアパートは4階建ての8世帯が住んでいる。多くは年金暮らしのお年寄りたちが住み、夜はとても静かになる。市内の中心地から少し外れた閑静な住宅街にあって、大きなベランダからは教会と大木が並び、鳥の囀りが聞こえてくる。多分今まで生きていた中で、一番住み良いと思えるくらい気に入ってる。

ここに住むお年寄りの方々は、訪問看護と食事の配達、そして家政婦を雇う人がほとんど。お向かいのおじいさんには、訪問看護師やら食事を届ける人たちの元気な挨拶が毎日朝昼晩と聞こえてきた。そしてそのおじいさんは動物好きなようで、散歩の行きかえりの我が家のわんこ、太郎を見るとニコニコして撫でてきて挨拶を交わす、とても微笑ましい日常だった。

 

 しかし去年の1月ごろから、お向かいのおじいさんに親戚だという多分100キロの体重がありそうな物凄く太った40代か50代くらいのベルギー人の独身女性が移り住んできた。そして1週間後、私は警察の訪問を受けた。力任せにドアを開けられて、警察官とその向かいに越してきた女性が押し入ってきたのには恐怖した。警察官は『オタクの犬が臭いと電話があった』と偉そうに腕組みしながら大声で言ってきた。『え?』と聞き返すと、ひどい英語で『あなたの家臭い』と英単語を並べた。わかりました気を付けますと答えると、その太った隣人は何かギャーギャーと言ってきた。

 夫が仕事から帰ってきたとき、警察官が家に無理やり押し入ってきたことを報告したら、家宅捜索の令状でもない限り、警察官が無理やり家に入る権利はないと怒っていた。それから、階段に犬の毛が落ちていると怒鳴る声がドア越しに聞こえるようになった。本来なら契約書にも1か月に1度階段を掃除すればよいことになっていたが、私は怒鳴られるくらいならと、毎週掃除をするようになった。それでも私は隣人から怒鳴られ、大家さんからも何度も注意を受けるようになった。 

 

 今までお向かいのおじいさんのために、1日に3度も来ていた訪問看護も、お弁当屋さんも、家政婦さんも来なくなった。それなのに料理をする様子もなく、階段どころか家の中で掃除機をかける音も聞こえない。ただ毎日あの太った女性の怒鳴り声と恐れおののくようなおじいさんの声が朝早くから聞こえてきた。

 ある日、お向かいがやけに静かだったのだが、きっとどこかに出かけたのだろうかと思っていた。そして数日後、救急車がやってきた。

なんとおじいさんは家の中で転び頭を打って動ず、数日床に横たわっていたそうだ。あの太った隣人は、『私は旅行に行って戻ったらおじいさんが倒れていた』と夫に言い訳をした。もし訪問看護や家政婦あるいはお弁当を頼んでいたら、すぐに異変に気が付いて早く対処できただろう。しかしおじいさんはそのまま看護付きの老人ホームに強制入居させられたそうで、その太った女性はおじいさんが所有していたこのアパートを自分のものにしたらしい。なんだか計画的だと夫は疑っている。

 しかしその太った隣人は何かと夫に話しかけようとする。夫は嫌がっていて彼女がドアから出ると夫は彼女が出かけるまで家の中で待っている。すると彼女もドアの前でじっと待っている。仕方なく夫が出てくると延々と話し込む。しかも罵声を浴びせる私とは違って、夫にはずいぶんと親切で馴れ馴れしい。夫もあからさまに邪険にできず、とりあえず隣人として話を聞く態度に徹している。

 

 だが、この怒れる隣人は私のことが気に入らず挨拶しても無視するのに、自分が注意されたことを私に注意するという嫌がらせを今も繰り返している。ドアの前では『あの中国人女が』とこのアパートの住民たちを捕まえては、私を口汚くののしっている声が聞こえている。

 年末私が熱を出して1週間以上寝込んでいた時、大家さんがいきなり鍵を開けて入ってきた。地下にある物置から水があふれ出て、原因は私だということにされたらしい。家の中が静かだから誰もいないと思ったらしく、許可も取らずに入ってきたのだが、夫もその時は仕事が忙しくて家の中はぐちゃぐちゃ。

私は大家さんに対してこれはあまりにも酷い住居侵入だと怒った。しかし大家さんもその隣人が延々と私たちについての文句をあることないこと言いに行って印象を悪くしているので、熱でヨレヨレの私に『こんな汚い部屋にしやがって』と吐き捨てるように言って、すぐに私たちに退去命令をだしてきた。ということで、やっとここで落ち着いたかと思われたのに、私たちはまた引っ越しをする予定となった。

 

 実はあの10年以上前に買ったおんぼろ雨月物語の家、手抜き工事が原因となって資金が尽きて放置するしかなかったのだが、いい加減に改築して住むようにしてほしいと夫に頼みこんでいる。隣人に恵まれず、わんことにゃんずと一緒に気ままに住むなら一軒家という結論にやっとたどり着きそうだ。

 

 

 

この自然公園は、ベルギーのテレビ番組のロケにもよく使われている、目の前に白鳥や水鳥が泳ぎ、水中散歩しているように見えるのが面白いからだろう。

 

 

 

このリズムが頭から離れない・・・・・・。