S病院の耳鼻科に、かって、飄々とした名物医長がいた。

定年退職に際して、彼は本を出版した。

それは、在職中に執筆された学術論文や随筆を纏めたものであった。

そのタイトルが『庇の下で』なのである。


彼は、有名大病院の庇をかりて、長年耳鼻科医として働かせていただいたという、「謙遜」の意味を込めて『庇の下で』とタイトルをつけたのであるが、退職後しばらくして病院事務所に現れ、・・・

「いや~、まいったよ。『屁の下で』と読まれてしまったよ!」と、ぼやき、呵呵大笑した。


なるほど・・・「名声」というものは、「屁」のようなものかもしれない。

「名声」を誇っていても、時が来れば、「名声」は、ガス状に飛散するのだろう。