のこり福のカウンター。
湯豆腐の湯気の向こうで、三人の表情がいつになく静かだ。

 

「なぁ、みやちん先生」
じいさんが、箸を置いて言った。

「結局、ワシは何をどう書いたらええんやろなって、思てまうんや」

 

みやちんが、ちょっとだけ肩をすくめて笑う。

「正直いうと──“正解”は人の数だけありますわ。
でも、“最低限ここは押さえといてほしい”ってとこは、あるんです」

 

「そげんの、先に聞きたかったばい」
真知子が苦笑いする。

 

「ほな今日は、“ここだけは覚えて帰って”5つのポイント、お伝えしますわ」

 

 

📝「これだけは覚えて帰って」5つのポイント

 

  1. “書きたい”と思ったときが、書きどき。
     → 先延ばしにして書けん人、多いです。

  2. 「誰に、何を」だけでなく、「どう書くか」が超重要。
     → 自筆なら形式を守る、公正証書なら手続きミスなし。

  3. 法定相続人以外に渡すなら“遺贈”を使う。
     → 書き間違いで無効になるパターン、かなりあります。

  4. 執行者・保管制度を使えば“届ける力”が段違い。
     → 書いて終わり、では届きません。

  5. 不安なときは、“一人で書かない”。
     → 行政書士・司法書士・公証人など、相談できる人はおる。

 

じいさんが、しみじみとつぶやいた。

「ワシ、最初“めんどい紙やな”思てたけど、
今はちょっと、“ワシの人生の、ええ締めくくり”になる気がしてきたわ」

 

「そう思えたら、もう半分書けてますわ」
みやちんが、湯のみをじいさんのほうへスッと差し出す。

 

真知子も、おちょこを掲げた。

 

「じゃあ、“ちゃんと残す未来”に──かんぱーい」

 

──かん。

三人の器が、静かにぶつかった音が、
今夜も、のこり福の奥で小さく響いた。

 

 

📝 おさらい:遺言書の3つの種類

 

遺言書には、法律で認められている方式がいくつかあり、利用されるのは

次の3つのスタイルです。

 

① 自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)

 

✔ 自分ひとりで作れるシンプルな遺言

  • 遺言者が全文・日付・氏名を手書きで書く

  • 費用ゼロ円〜でスタートできる

  • 財産目録はパソコン作成OK(ただし署名・押印必要)

   🔸 メリット
    ・思い立ったらすぐ書ける
    ・誰にも知られずに作れる

 

   🔸 デメリット
    ・形式ミスで無効になるリスクあり
    ・保管や紛失・改ざんの心配も
    ・家庭裁判所の「検認」が必要

 

自分で書いた遺言書が不安だよ~って人は、その遺言書が用法要件に定まっているのかを判断してくれる・相談に乗ってくれる確かな場所がありますよね?

 

そうです、そうなんですよ!公証役場で公証人の先生に相談するんです!

これやっぱり絶対に間違いない方法ですね!相談は原則無料ですよ。

*あくまで選択肢の1つです。公証役場も忙しいので頻繁は遠慮しましょう。もしくは専門家に相談です

 


② 公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)

 

✔ 公証役場で、公証人が作ってくれる正式な遺言

  • 公証人(元裁判官等)が内容を聞き取って作成

  • 証人2人の立会いが必要

  • 原本は公証役場が保管

   🔸 メリット
    ・形式ミスの心配ゼロ、検認不要
    ・紛失や改ざんのリスクなし
    ・確実に「使える遺言」が残せる

   🔸 デメリット
    ・費用(数万円程度)がかかる
    ・作成・変更に手間と準備が必要
    ・証人の確保が必要(ただし依頼可能)

 

💬 みやちんの補足メモ

公正証書遺言──これは、間違いないです。
書式のミスや紛失の心配もなく、検認も不要。いわば、「プロの手で残す安心パッケージ」みたいなものです。

 

ただし、ちょっとだけ注意点もあります。

 

まず、公証人の先生も人間です。ごくまれに誤字や脱字が入り込むことがあります。
でも大丈夫。作成時に全文を読み上げて確認する時間があるので、その場で気づいて直すことができます。そういう点でもリスクはかなり低くなります。

 

そしてもうひとつ──
公証役場は、必要な戸籍や資料を代わりに集めてはくれません。
書類の準備は、原則すべて「ご本人まかせ」なんです。

 

ですので、
「書類をそろえるのがちょっと負担だな…」という方は、
行政書士などの専門家にサポートを頼むのも、決して悪い選択ではありません。

 


③ 秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)

 

✔ 内容を秘密にしたまま、公証役場で“預ける”遺言

  • 内容は自分で書く(パソコンでもOK)

  • 公証人と証人2名の前で、封印したまま提出・証明

   🔸 メリット
    ・内容を秘密にできる(家族にも見せなくていい)
    ・“公正証書よりは手軽”と感じる人も

    ・費用が安く、代筆も可能。

   🔸 デメリット
    ・結局、家庭裁判所の検認が必要
    ・手続きがやや複雑で、あまり使われていない
    ・封印が破られていたら無効になる可能性も

    ・遺言書についての知識が求められる。専門家でも経験豊富でないと難しい。

 

💬 秘密証書遺言について──採用するなら“特別な事情”があるときに

 

秘密証書遺言は、実はあまり一般的ではありません。
というのも、この方式は──
「年に2回くらい遺言を書き直したい」など、特別な事情がある方にだけおすすめできるタイプの遺言だからです。

 

一見すると「内容を秘密にできるなんて便利そう」と思われるかもしれませんが、
この方式には高度な“遺言リテラシー”が求められます。
正直なところ、公証人の先生レベルの知識と注意力が必要です。

 

また、公正証書遺言には作成時に
「遺言者本人と証人2名の前で、公証人が内容を読み上げる」という確認儀式があります。
そのため──

  • 内容が少し恥ずかしい

  • 財産の渡し先を誰にも知られたくない

といった事情がある方にとっては、秘密証書遺言の方が向いている場面もあります。

 

ただし。
もし秘密証書遺言の文案を専門家に代筆してもらうのであれば、
必ず「遺言や相続に精通した専門家(行政書士・弁護士等)」を選んでください。

*目安としては公正証書遺言の作成サポートを年間20件以上は行っている専門家です。
 

ここを間違えると、せっかく秘密にしても内容そのものが無効になるリスクも出てきます。

 

👉 つまり、秘密証書遺言は「便利」よりも「使いこなせるかどうか」がポイント。
よく検討し、必要があれば専門家と一緒に作ることをおすすめします。


 

湯豆腐の火が、静かに小さくなってきた。

じいさんが、ぽつりとつぶやいた。

 

「ワシ、最初は“遺言なんて金持ちのもん”て思うてたけどな。
聞いてるうちに、“ワシにもちゃんと伝えときたいことあるんや”って気ぃついたわ」

 

「じいさん……」
真知子が、ちょっと笑ってうなずく。

 

「うちもね、
“なんかあったら困る”ってずっと思ってたんよ。
けど実際、“書いといたら助かる人がおる”ってわかって──
それなら、怖がるより、ちゃんと準備した方がええんやないかって」

 

みやちんが、湯呑みを静かに置いた。

 

「せやから、今日みたいに“自分の想いをカタチにする”ってこと、
それ自体がもう、立派な“残し方”やと思います」

 

「書くってことは、“決める”ってことでもあるとやね」
真知子がそっとつぶやく。

 

「はい。
そして、“書いておく”ことが、
家族への思いやりでもあり、自分へのけじめにもなるんです」

 

じいさんが、ゆっくりとおちょこを持ち上げた。

 

「ほな、人生のしめくくりに──ええ一筆、入れとこか」

 

三人の器が、静かにぶつかる。

──かん。

 

のこり福の夜は、しんと静かに更けていった。

 

 


🎌【シリーズ完結】

ここまでお読みいただきありがとうございました。
この10回にわたった「遺言書の話し」シリーズが、
あなたの “これから” を考える、ささやかなきっかけになりますように──。

 

📘「遺言を“難しい書類”ではなく、“あたたかい置き手紙”に。」
それが、のこり福の願いです。

 

当事務所では無料にて相談に乗っております。

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