――スナック・ランクワームタイにて

 

店のドアがカランと鳴った。
空気が一瞬だけ、まるでテレビのリモコンを押されたように切り替わる。

 

「いや〜、大阪からやっと帰ってきましたよ。Peeママ、お久しぶり!」

 

Peeがうれしそうに両手を広げる。

 

「来たネ〜、みやちん!
みんな、紹介するヨ〜。この人、アタシが“ギョウチュウショシ”って言ってた人!」

 

全員が固まる。

 

桃太郎「……寄生虫の人?」

 

北島「違うよ、それたぶん“行政書士”だろ」

 

縁子「……あ〜、聞いたことある。“なんでも書類の人”でしょ?」

 

みやちん、ニコニコしながら一歩前へ。

「どうも、“みやちん”と申します。
代書屋行政書士やってます。ギョウチュウではありません、念のため」

 

(誰も笑わない)

 

「ふだんは、外国人のビザ申請とか、遺言書とか、
まぁ“死ぬ前”も“死んだあと”も、いろいろ書類作ってる人です」

 

桃太郎がポツリとつぶやく。

 

「“死んだあと”って……なんで生きてる人がやるんだろうな」

 

みやちん、間髪入れずに返す。

「それは、死んだ本人じゃ役所に行けないからです。死んでも、紙は残る。書類は嘘つかない。それが、僕らの業界の恐ろしさであり、醍醐味です」

 

Peeがうなずく。

「この人ね、話はオタクっぽいけど、頼んだらちゃんと“死後のゴミ”片づけてくれるヨ〜」

 

桃太郎「……ゴミって、後片付けでしょ?!(笑)」

 

縁子「でも、確かに。
死んだあとって、誰が手続きするかとか、ちゃんと決めとかなきゃだよね」

 

北島「俺なんか、冷蔵庫の納豆が永遠に残る気がしてる。あぁ作りかけの“トッティー・フルッティー”どうすんの!?」

 

Peeが声を上げる。

「ね、みんな“死んだあとの段取り”って、考えたことある?」

 

沈黙。

氷の音だけが響くカウンターに、
「ギョウチュウショシ」が、ゆっくり腰を下ろした。

 

🗂️「死んだら終わり?いや、始まりです」

 

「ていうかさ、そもそもなんで“死後事務委任”なんて必要なんですか?

桃太郎が言った。
それはたぶん、店に来てからいちばんちゃんとした質問だった。

 

みやちんは、氷の音が止むのを待ってから答えた。

死んだら全部終わる、って思ってる人が多いんですよ。
でも実際はそこからが、本当の“めんどくさい”の始まりなんです」

 

北島がぼそっとつぶやく。

「それ、俺の冷蔵庫の中にも貼っときたいな……“死後、要注意”」

 

Peeが笑いながら、

「アンタの部屋は冷凍うどんがずっと生きてそうネ〜」

 

みやちん、手元のウイスキーロックをひと口飲んで、静かに続けた。

 

「家の片付け、公共料金の解約、ペットの引き取り。
しかも、それをやってくれる人が“いない”っていうのが、今、どんどん増えてるんです」

 

店内の空気が、ふっと静かになった。

 

「だから、生きてるうちに決めておく。“誰が何をやるか”を。それが“死後事務委任契約”ってわけです」

 

「そいや、みやちんカンサイベンなおったのか?」

 

「新幹線が東京に近づいたらなおった(笑)」

 

📝 死後事務委任契約って、ざっくり言うとこんな感じ

  • 死んだあとの「事務手続き」を、生きてるうちに誰かに頼んでおく契約

  • 遺言ではカバーできない“片づけ系”の仕事をお願いできる

  • 親族じゃなくても、知人や専門家(行政書士など)に頼める

  • 契約内容は自由に決められて、必要なことをピンポイントで託せる

  • 契約書は公正証書にしておくと安心(トラブル防止)というかマスト。

🧾 具体的に頼めること(一例)

  • 火葬・納骨・葬儀の手配

  • 住んでいた部屋の片づけ、鍵の返却

  • 電気・ガス・水道・スマホなどの解約手続き

  • 役所への死亡届提出(※条件あり/別途手段も)

  • SNSアカウントの削除

  • ペットの引き取り・世話の依頼

  • 親族・関係者への連絡

  • パソコンや私物の処分(あの“フォルダ”も……)


👤 こんな人に特におすすめ!

  • 子どもがいない、または親族と疎遠な人

  • 事実婚・パートナーシップなど、法的に家族でない人が身近にいる人

  • LGBTQ+など、家族に頼れない可能性がある人

  • 遺された人に迷惑をかけたくない人

  • 「自分の死後くらい、自分で決めておきたい」人


 

桃太郎が、メニューの裏でうちわ代わりにしていた紙をピタッと止めて言った。

 

「へぇ〜……けっこう、いろいろできるんだね。
死んだあとのことって、そんなに事務処理あると思わなかったよ」

 

そのとき、ずっと沈黙していた北島が、グラスをカランと鳴らしながらぼそっと言った。

「……でもさ、死亡届って……
あれ、家族とかじゃないと出せないんじゃなかったっけ?」

 

一瞬、空気が止まる。

 

Peeが、ストローをもぐもぐ噛みながら目を細める。

「お〜、いいとこ突いたネ〜。さすがパティシエ、細かい材料見るタイプ」

 

みやちんが手元のナプキンで汗を拭きながら、スッと真顔になる。

「実はそこ、ちょっとややこしいんですよ」

 


 

📄 死亡届って、誰が出せるの?

 

桃太郎が「いろいろ頼めるんだ」と感心した直後、
北島のひとことが飛び出す

「あれ?死亡届ってさぁ、なんか家族とかしか出せないよね?」

この疑問、まさに核心です。

 

🧾 法的にはこうなってる!

 

📜【戸籍法 第86条(死亡の届出)】

死亡の届出は、以下の者が行うものとする。

  • ① 同居の親族

  • ② 同居していない親族

  • ③ 家主、地主または家屋もしくは土地の管理人

  • ④ 後見人、保佐人、補助人

  • ⑤ 同居人(事実上)

  • ⑥ 医師・看護師(病院などの場合)

 

❗ つまり、「死後事務委任契約の受任者」は含まれない!

 

法律上は、“家族や法定代理人”に限定されており、
死後事務の受任者は届出義務者に該当しないため、原則として死亡届は出せません。

 

🧩 じゃあ実際どうしてるの?

 

ここで現場レベルの“実務”が登場します👇

 

✅ 対応例①:届出義務者から委任状をもらう

  • 親族から「この人に提出を任せます」という委任状があれば、役所が受付する場合がある

  • ※ただし自治体により判断が異なる

✅ 対応例②:葬儀社にお願いする

  • 実務では葬儀社が親族から依頼され、形式上の届出人は家族、実際の提出は葬儀社というパターンが多い

  • 死後事務委任の事務の範囲に「葬儀」についての委任があればそれを基に葬儀社に死亡届の提出依頼が行えるという理屈もある。

  • それでも自治体の判断に寄るところは大きい。

✅ 対応例③:家主・管理人として提出する

  • 住まいの契約上、賃貸物件の貸主が部屋の「所有権のある管理人」扱いで役所が受理するケースもある(かなりグレーだが現実にあり)

  • 賃貸物件の契約を解除するためには仕方がないと判断してもらえる可能性。

 

💬 まとめ:じゃあどうすればいいの?

死亡届を第三者(例えばPeeママが信頼する“ギョウチュウショシ”)に出してもらいたいなら

  • 任意後見契約を発効させておく(後見人なら届け出可能)

  • 家族からの委任状を準備しておく

  • 葬儀社に依頼し、その人を窓口にして出す(実務で最も一般的)

  • どうしても親族がいない場合は、専門家に早めに相談して段取りを

 

📌 Peeママのアドバイス

「届け出るのって、実は“死んだあとの最初の山場”なのヨ。
法律はカッチカチだけど、役所ってけっこう“人間の事情”で動くのよ〜。」

 


 

 

🍶死んだ後のトッティー・フルッティー…??

桃太郎が、グラスの氷をくるくる回しながらぼやく。

 

「いや〜……死んだらそれで終わりだと思ってたっすけど、
死んだあとも、いろいろ大変なんすね……」

 

緑子がリップをひと直ししながら、横目でつぶやく。

 

「人間関係も、書類も、どれだけ整えてても──死後って、一気に化粧崩れみたいになるのよね。時間が経つと全部バレる。毛穴から、契約まで」

 

桃太郎「急に肌管理の話になるの、やめてもらえます……?(笑)」

 

そのとき、北島がスマホを伏せながら、ふっ…と笑った。

 

「……俺、死んだあとに残るんだよな。“アレ”が。動画系の……」

 

そわそわする北島、
「フォルダ名? “トッティー・フルッティー”。カラフルで無害そうに見えるけど、
中身は……まぁ、“フルーツどころじゃない”って感じ?願望盛りだくさんって感じ?」

 

全員、微妙な表情。

 

「っていうかね」北島は続ける。

 

死後のデータって、ミルフィーユなのよ。
層があって、見た目が上品で、でも切ったら…ボロボロこぼれる。
俺の人生、ホント、パティスリー仕上げの崩壊寸前だよ」

 

みやちん、うなずきながらニヤリ。

 

「その“崩れる前”に頼んどいてもらえれば、
中身見ずに“トッティー・フルッティーごと”処分できますよ。契約書に書いときゃね

 

桃太郎が顔を覆いながらつぶやく。

「いやもう、死んでから色々バレるの一番つらいっすね……家族にしられたくない!

う~~ん、出せなかったラブレターとかね…ああああ!!」

 

Peeがストローをカチッと噛んでから、小さな鈴をチリンと鳴らす。

 

「はいはい、今日はここまで〜!次回は“具体的に何を頼めるか”

──あんたらの人生の後片づけメニュー、全部見せてもらうわヨ」

 

 


📺次回予告

次回──
「その見られたくない、トッティー・フルッティーどうするんですか?」
 

お菓子の名前に隠された、あのデータ。
トッティー・フルッティーは、死後に咲く地雷だった!?
人生で一番どうでもいい名前のフォルダをめぐって悩む!

「契約書に書いていいんですか?……トッティー・フルッティーって」

次回もお楽しみに!

 

更新は次の日の20時ぐらいです。

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