スナック・ランクワームタイ、21時ちょっと過ぎ。
今日もテレビは音なし。照明はどこか遠慮がち。
ただ、カウンターだけは、妙にざわついていた。
みやちんが話し終えた直後だった。
「ファイルの処分も契約でできる」という爆弾発言のあと、
空気が妙に湿っぽい方向へ傾いている。
桃太郎が、ストローでグラスの氷をぐるり。
「……でも、実際にそんなファイル残ってる人、ほんとにいるんすかね?」
その瞬間だった。
北島がスッと背筋を伸ばした。
「はい、ここにいます」
全員「出たな…」の目線。
北島は、グラスの縁を指でなぞりながら言った。
「いいかい?
俺のPCの中には、“トッティー・フルッティー”っていうフォルダがある」
緑子「お菓子?」
桃太郎「イタリアンジェラート的なやつっすよね?」
みやちん「……それ、もしかして――」
「そう、“中身はフルーツじゃない”」
北島、キメ顔。
「トッティー・フルッティー――
それは俺の甘くて、酸っぱくて、社会的に終わるやつなんだよ」
緑子「つまり、見られたくないってことよね?」
「違う。“見せたくなさすぎて、逆に隠す気ゼロ”でトッティー・フルッティーにしたの。本当に大切なものは、だいたいバカみたいな名前に隠されてるんだよ」
桃太郎「いや隠しきれてないんすよ、それ……」
Peeが鼻で笑う。
「そもそもフォルダ名でそんなに背負う?アンタの人生、どんだけ薄皮重ねてんのよ」
北島、どこ吹く風。
「“パティシエは、秘密を層にして焼く”んだよ。
俺は今、“焼きあがった人生”の表面に粉糖ふってんの」
桃太郎「それ、もう死後処理じゃなくて、供養なんすよ……」
みやちん、淡々と。
「……ちなみに、“トッティー・フルッティー”という名称、
契約書には正式名称として明記することも可能です」
北島、食い気味で。
「書いて!ぜひ書いて!!
“フォルダ名:トッティー・フルッティー、一式データ完全削除”って!」
緑子がため息をつく。
「その一文だけで、遺された人の情緒が壊れるわよ……」
👤 実際に死後事務委任契約を結んでおいたほうがいい人
1. 🧍♂️ ひとり暮らしの人(独身・子なし)
→ 家族がいない、または頼れない場合、
死後の手続きを誰かに任せる準備はとても大切です。
2. 🏠 親族と疎遠な人・縁が薄い人
→ 「家族に連絡しないでほしい」
「誰にも迷惑をかけたくない」という人にも有効。
3. 🏳️🌈 LGBTQ+など法的に“家族”と認められないパートナーがいる人
→ 親族ではない相手に死後の手続きを任せるには、
契約が法的な後ろ盾になります。
4. 📦 遺品・デジタルデータを自分で管理したい人
→ 恥ずかしいフォルダも、部屋の整理も、
「見られる前に処分してほしい」なら契約が有効です。
5. 🧓 高齢で、身の回りのことを整理しておきたい人
→ いわゆる“終活”の一環として。
自分の希望通りに後始末してもらうために。
6. 📝 遺言だけでは不十分だと感じている人
→ 遺言書は「財産の分配」には有効ですが、
火葬・解約・片づけなどの実務は対象外。
別途、死後事務委任契約で補完する必要があります。
💬 こんなご相談がよくあります
当事務所には、次のようなご相談が寄せられます。
「ひとり暮らしの独身です。子どももいません。
兄弟はいますが、みんな高齢で、もしものときに頼るのは難しいと思っています。
せめて自分の死後のことくらいは、自分で整理しておきたい。
でも、全部を一人でやりきれるかというと不安もあって……
それでも“最後くらいは家族に迷惑をかけたくない”んです」
このように、
-
家族との距離感や、
-
自分の年齢や体力の不安、
-
最後をきれいに整えておきたい気持ち
を抱えている方はとても多くいらっしゃいます。
🏮「それぞれの“頼めない理由”が、誰かに頼る理由になる夜」
常連たちがぽつぽつと、自分の“死んだあとのこと”を語り出していた。
誰も笑ってないけど、泣いてるわけでもない。
ただ、みんなちょっとずつ、自分にしかわからない重さを抱えていた。
桃太郎が氷の音と一緒にこぼす。
「……俺、姉がいるんすけど。このまま高齢化して死んで、ねぇちゃんも高齢化して…俺の後始末まで頼むのは無理っすね」
緑子がうなずく。
「うちも似たようなものよ。
姪とは仲が良いけど……死んだあとの事務手続きまで任せるのは、ちょっと、ね。可哀想で」
北島がくすっと笑いながらグラスを持ち上げる。
「俺なんて娘はいるけど、20年会ってない。
死んだあといきなり“遺体と洋菓子店の引き継ぎよろしく”って連絡されてもさ……
こっちが成仏できねぇよ」
桃太郎「パティシエは死後も焼き上げてくんすね……」
北島「うちの店なんて機材ゴリゴリで、整理も地獄!従業員の退職手続き、未払い給与、あと予約のケーキも……俺の死後って、業務用冷蔵庫の中より冷えてると思う」
緑子「何それうまいけど、やめて」
Peeが静かにうなずく。
「アタシも家族に本当のこと言えてないし……どうすンだヨ!!
死んだあとのことくらい、ちゃんと“アタシ”のままで終わりたいヨ。
“親族”じゃなくて、“信頼できる人”にお願いしたいのヨネ」
そこで、みやちんが静かに口を開いた。
「皆さん……実はそれ、まさに“死後事務委任契約の本質”なんですよ」
一同、そろってそっちを見る。
みやちんは、カバンから一枚のサンプル契約書を取り出した。
「“頼れない事情がある人”こそ、生前に“頼る準備”をしておくことで、
“誰にも迷惑をかけない”最後が実現できるんです」
桃太郎「……でも、それって書類とか、お金とか、めんどくさくないっすか?」
「いえ、手順さえわかっていれば、意外とシンプルです。
内容だって、“どこまで頼むか”を自由に決められます」
北島「たとえば?」
「たとえば、“お店の解約手続きだけ”でもいいし、
“パソコンのトッティー・フルッティーを削除してくれ”も可能です」
一同、苦笑。
Peeがニヤニヤしながら、
「ほらほら、“頼めるうちに頼みなさい”ってイッテンダヨね。
アタシいつも言ってるじゃない」
みやちんが契約書をカウンターに置きながら、静かに締めた。
「“死んだあとに困る人”のことを、“生きてるうちに考えておく”のが、本当の思いやりですから」
桃太郎が契約書を見つめながら、ぽつり。
「……でもこれ、やっぱり……お高いんでしょ?」
みやちんがにっこり笑って、
「まぁ、安心の対価ってやつですね」
Peeがチリンと鈴を鳴らす。
「じゃ、次は“お金の話”と“ちゃんとした作り方”ね。
逃げんなよ、桃太郎〜」
📺次回予告(最終回)
次回──
「最後の段取り、いくらかかるの?」
どうせなら安心して終わりたい。
でも契約って、なんかお金かかりそう……?公正証書にする意味とは?実際いくら?
桃太郎が、人生で初めて“自分の終わり”に値札をつける最終回!
スナック・ランクワームタイで会いましょう。更新は明日の20時です。
