■自筆証書遺言は用法様式にのっとた用紙を選ぼう
のこり福のカウンターにて。
今夜も並ぶふたりの背中。
左は、焼酎片手に人生の終盤戦を見据えるじいさん。
右は、ネクタイをゆるめた帰り道の行政書士・みやちん。
「なあ、みやちん」
「はいはい、またお金の話ですか?」
「ちゃうちゃう。ワシ、ついにや。遺言書書いてみようと思てな。」
「……おお!ついにですね!」
「でな、これ持ってきたんや」
じいさんがバッグから取り出したのは──
B5サイズのスケッチブックと年賀状用の筆ペン。
「これに、シャーッと書いたらええんやろ?」
「……ストーーップ。」
みやちん、真顔。
「えっ、あかんの?」
「じいちゃん。それ、書いた気になれるだけセットです。」
「どういうことやねん」
「スケッチブックも筆ペンも、演出強めの“自己満遺言”セットなんです」
📘遺言書に適した紙ってどんなの?
法律的には、紙の種類に決まりはありません。
“ルールがない”ことと、“何でもいい”は別物です。
✅ 推奨される用紙の条件
-
A4サイズ(一般的な書類と同じ)
-
白い上質紙(コピー用紙可)
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無地(罫線・柄なし)
-
にじまない・破れにくい・裏写りしない
「つまり、“ワシっぽさ”出したろ思て、
便箋に桜の模様とか入れたらアカンてことやな」
「そう。
模様より信用。デザインより機能性。遺言書は作品やない。証拠です」
「……なるほど。ほな次、どんなふうに書いたらええんや?」
「お待ちしてました。“ここだけは絶対外したらあかん三カ条”、いきます。」
📌「自筆証書遺言」3つの絶対条件!
🔹① 全文、自分で“手書き”する
→ ワープロ印刷・代筆・録音はすべて無効
→ ※財産目録だけパソコンOK(遺言者本人の署名、日付、住所の記載と押印は必須)
🔹② 日付は“明確に”書く
→ 「○月吉日」「春ごろ」=✕アウト
→ 正しくは「令和7年5月18日」など、年月日そろえて!
→仮に令和7年5月18日に書いた日付の遺言書があるとして、
令和7年6月1日の日付の遺言書が見つかったとします。
この場合、有効なのは6月1日の遺言で、5月18日の遺言は無効となります。
たとえば、5月25日に公正証書遺言を作成したとします。
その後に6月1日の日付の遺言書が見つかった場合、
検認で認められたら5月25日の公正証書遺言は無効となります。
🔹③ 各用紙に氏名の自署、日付、住所+押印
→ フルネームで自筆、押印は認印OK、実印ならなお安心
→ シャチハタは…ちょっと帰ってください。
「……ワシ、昨日シャチハタしか持ってきてへんかったわ」
「え、昨日書いたんですか?」
「あかん?」
「日付入ってて、自署あって、印鑑がシャチハタやったら──
“惜しいけど無効”っていう
“アタック25で白ボタン押した人”みたいな状態ですね」
店内に小さな笑いが起きる。
でも、空気はちょっとだけ引き締まっている。
「あのな、じいちゃん」
「ん?」
「“書いたつもり”で済んでる人、実際めっちゃ多いんです」
「……え、ワシもそのひとりやったんか」
「はい。今、ギリギリのところで止めました。えらい」
「ふぅ……」
みやちんが箸を置いて、少しだけ真剣な目を向けた。
「じいちゃん。
遺言って、“気持ちを残す”だけやなくて、“争いを防ぐ”ために書くものなんです」
■自筆証書遺言の書き方やきまり
「で、みやちん──書くとして、
最初に“遺言書”ってタイトル、いるんか?」
じいさんが焼酎の湯呑みをくるくると回しながら聞く。
「基本は“遺言書”って明記するのが安心ですが……
実は、『私の想い』とか『最後の手紙』でも通った判例があります。」
「おっ、なんかちょっとエモいやんか」
「ただし、“内容”がちゃんと遺言の要件を満たしてることが条件ですよ。
感動的なタイトルでも、中身が『旅行日記』やったらアウトです」
「ワシ、“わたしのいらんこと書き”ってタイトルにしようか」
「……それ、家族が開けた瞬間に泣くどころか笑い出すやつです」
📌タイトルに関するポイントまとめ
✅ 一般的には「遺言書」と書くのがベスト
✅ ただし「私の想い」「最期の手紙」などでも有効とされた判例あり
✅ 要は「内容」が遺言の体をなしていればOK
✅ タイトルは自由でも、中身がふざけてるとアウト
正しい書き方としては…(簡易版)
遺言書
第1条 遺言者は、相続開始時に有する全ての財産を遺言者の弟 ○○○○(昭和○○年 〇月○○日生、住所:○○県○○市〇丁目…住民票通り)に相続させる。
記
財産の内容を記載します。
第2条 遺言執行者として、フォーチュンは合同会社(北区赤羽北3丁目…)を指定する。
令和 年 月 日(本日の日付)
ご本人の住所
お名前 印
こんな感じで書きます。
✍️じゃあ、書き間違えたらどうすんの?
「わし、めっちゃ“漢字間違い”するんやけど……
修正テープとか貼ってもええんか?」
「あかんです。
修正テープ、修正液、二重線だけ──全部アウトの可能性あります」
「えぇ……何がセーフなん?」
「ルールにのっとった“古典的訂正”だけです。今日はそれ、詳しく教えます」
📌【これが正しい訂正方法】※訂正が必要になったら、以下を守って!
① 二重線で消す(1本線はNG)
→ 修正する箇所に定規でピシッと二重線
→ 文字が読めなくなるくらい塗りつぶすのはNG!
② 訂正印を押す(訂正箇所のすぐ横)
→ 押すのは書いた本人の印鑑、住所氏名日付+押印の印鑑で(できれば実印)
→ 別人の印、誰かが代わりに押す→無効の可能性大
③ 余白に訂正内容を明記
→ 例えば
3行目の“花子”を“太郎”に訂正する場合、「花子」に二重線を引き、その上に「太郎」と書きます。用紙の余白に「3行目、2字削除、2字加筆」と書きます。
その下に名前を署名し、遺言書に押印するのと同じ印鑑で名前の横に押印します。
*ちなみに公正証書遺言の訂正の場合は、公証人が「3行目2字削2字加」と書き公証人の署名と公証人印を押し、その横に証人2名が名前を記載して押印する。
「なんや、めっちゃ面倒くさいやん……」
「そうなんです。だから私はいつも言います──
“訂正するくらいなら、最初からゆっくり丁寧に書きましょう”って」
*この要件をまもれず検認がはじまると、「訂正箇所のみの遺言が無効になる。」したがって、間違えたからといって遺言の全体が無効になるわけではない。
■あらかじめ、財産目録を用意しておくと楽
財産目録
⑴不動産(細かく記載する。パソコンでの作成もOK)
(区分所有建物)
(一棟の建物の表示)
所 在 ○○県○○市〇丁目…
建物の名称 フォーチュンマンション
⑵預貯金
○○銀行 ○○支店
種 類:普通または定期預金
口座番号:12345678
・
・
・
の記載が財産目録にあるとします。遺言書には、
財産目録⑴不動産を太郎に相続させる
財産目録⑵預貯金を法定相続分にしたがって太郎と花子に相続させる
と、財産目録があれば簡単な書き方ができます。財産目録がない場合は細かく遺言書に書くことになります。
「でもな、たまに勢い乗ると、ガーッと書いてしまうやん」
「じいちゃん、それ“自筆証書あるある”ですけど……
ガーッと書いて“全無効”もあるあるなんですよ」
🔧みやちんのおすすめ対策
-
まずは下書き(鉛筆・別紙)で内容を整理
-
本番は清書用紙に、ゆっくり丁寧に
-
文字は大きめ・ていねいが基本(読むのは家族と裁判官)
■相続人の“ほんまの範囲”と、ちゃんとした書き方
「なあ、みやちん。
ワシな、子どももおらんし、かみさんも先に逝ってしもたし……
ワシの財産って、誰がもらうことになるんや?」
焼酎のグラスをくるりと回しながら、じいさんがぽつりとつぶやいた。
「じいちゃん、まずは一緒に相続人の“順位”から整理していきましょうか」
「ああ、出た。“法定相続人”ってやつやな?」
📘相続人は“順位”で決まる!
✅ 第1順位:配偶者、子(または孫)
→ いない場合、次へ
✅ 第2順位:父母(または祖父母)
→ すでに亡くなってる場合、次へ
✅ 第3順位:兄弟姉妹(またはその子=甥・姪)
「ワシの場合やと、子もおらん、両親ももうおらん」
「となると──相続人は、“兄さんと弟さん”です」
「おおぉ……兄貴と弟に、あの通帳の中身が……?」
「遺言書がなければ、そうなります」
「それ、ちょっと考えもんやな……」
✍️じゃあ、甥に渡したい場合は?
「なあ、みやちん」
じいさんが、湯豆腐をつつきながらぼそっと言った。
「別にそんな気はないねんけどな──“もしも”やで?
たとえばワシが、弟の息子に何か残すとしたら……
それってどう書いたらええんや?」
「あー、そういう仮の話ですね」
みやちん、ニヤリとしながら聞き返す。
「うん。別に渡したいわけちゃうで?
なんなら顔も20年見てへんし、どんな顔かも正直あやふやや」
「じいちゃん、それ“ぜんぜん渡す気ない人のセリフ”ですやん」
店内に軽く笑いが広がったあと、みやちんが箸を置いて言った。
「でも、たとえばそういう“相続人じゃないけど、何か渡したい人”に
財産を残すのはぜんぜんアリなんですよ。
遺言書ではそれを“遺贈”って言います」
📘たとえば、甥に財産を残すなら?
「ふーん。じゃあ、その弟の息子、名前は……たしか“太一”やったかな」
「お、いい感じに“それっぽい情報”ですね」
「でもな、20年会ってへんし、今なにしてんのかも知らん」
「そういうときこそ、“書き方”で明確に特定できるようにするのが大事なんです」
📝書き方の一例(あくまで仮の話として)
私の財産のうち、以下のものを次の者に遺贈する。
・預金(○○銀行○○支店 普通口座1234567):
弟 山田次郎の長男 山田太一(平成10年1月1日生)に遺贈する。
・オートバイ(ヤマハ セロー250 ナンバー○○-○○):
同上 山田太一に遺贈する。
✅ 名前はフルネームで。
✅ 生年月日や“○○の長男”などの情報で特定できるように。
✅ 会ってなくても問題なし。ただし、相手が拒否する可能性もある。
「つまり、“たとえば渡すなら”こうやってちゃんと書かんとあかんってことやな」
「そうなんです。“ぼんやりした思い”を、
“ちゃんと届く文書”にするのが遺言書ですからね」
「……でも、まぁ、今回は書かんけどな?」
「はいはい、わかってますよ。
でも一応、甥っ子さんのフルネームと生年月日、今のうちに調べときます?」
「……おい、それフリみたいやんか」
📘 自筆証書遺言:相続関係の書き方まとめ
✅ 1. 相続人には「誰に」「何を」明確に書く
-
「長男に全部あげる」ではなく、フルネーム+生年月日などで特定
例:長男 山田太郎(昭和50年5月5日生)に、自宅を相続させる -
財産の内容も具体的に明記
例:大阪市〇〇区の不動産/〇〇銀行の口座番号1234567
✅ 2. 相続人以外に渡す場合は「遺贈」として書く
-
「甥」「友人」「内縁の妻」など法定相続人以外もOK
-
「遺贈する」という表現を使う
例:甥 山田太一(平成10年1月1日生)に預金を遺贈する
✅ 3. 特定しにくい相手には補足情報を添える
-
続柄だけでは足りないことがある(例:「弟の長男」など)
-
可能であれば、住所・生年月日・親の名前などを併記すると確実
✅ 4. あだ名・通称はNG。必ず本名で
-
「太郎くん」「たっちゃん」などは避ける
-
戸籍上の名前で書くこと(トラブル防止のため)
✅ 5. 財産ごとに「誰に何を渡すか」をセットで書く
-
「通帳」「土地」「株式」などは、どの財産を誰にか明確に
-
「全部まとめて〇〇に」も可能だが、他の相続人の不満に注意
✅ 6. 遺贈された人は「断る」こともできる
-
相続人以外(例:甥・友人など)に遺贈した場合、受け取りを拒否することも可能
-
実際に渡すには、遺言執行者の指定もあるとスムーズ
✅7.遺留分にも注意
- 配偶者、子供(養子)、親(尊属・養親)が健在だが、誰かに遺贈する場合には遺留分が発生します。
「で、みやちん。“遺留分”ってのは誰にでもあるんか?」
「いえ、それがね。兄弟姉妹には“ない”んです」
「えっ、ほな仮にワシが、甥っ子に全部わたしても問題はないんか?」
「法的には問題ありません!遺留分を気にせず、自由に決めてOKです」
のこり福のカウンター。
じいさんが「全部、甥にやったろか」なんて話している横で、
真知子さんが湯呑みをテーブルに置きながら、ぽつりとつぶやいた。
「……ねぇ、みやちん先生」
「はい、なんでしょう?」
「その“遺留分”ってやつ……ちょっとだけ、聞いてもいいかな」
「もちろん。誰か揉めてるとかですか?」
「ううん、まだ何もないけど……
なんかね、ちょっと気になることがあるのよ」
「なるほど……じゃあ、次回、ゆっくり話しましょうか」
🔔【次回予告:シリーズ第7回】
「誰が相続人で、どこまで“遺留分”って効くの?
──知ってるようで知らない相続のルール」
「うちは関係ないと思ってた」
「書いたら大丈夫って聞いた」
──でも、実はちゃんと知らないまま進めると、“あの人”から「ちょっと待った」が入ることも?
次回は、
📌 法定相続人の範囲と優先順位
📌 “遺留分”って誰がどれくらい主張できるのか
📌 じいさんのケースではどうなる?
を、みやちんが噛み砕いて解説!
女将・真知子さんの“気になる過去”にも、少しだけ触れるかも…?
のこり福で、次回もお会いしましょう🍶📘
更新は毎日20時!
