愛の花

「命を授かったと知った
日のこと」




夫婦としての
新しい生活が始まり


私は仕事も続けていました

朝は5時に起きて
洗面を済ませお化粧をし
身支度を整えると

洗濯機を回しながら
お弁当を作るのと同時に
朝食を作り

夫と一緒に朝食を取り
夫を見送ると
キッチンを片付けて

洗濯物を干してから
私も出勤する
そんな朝を迎えて
早や3年に
なろうとしていました


それが
当たり前になった生活も
とても楽しくて
忙しいとも思ったことが
ありませんでした


けれど夫の母からは
赤ちゃんはまだなの?と
会うたびに聞かれ
電話でも聞かれて
○○さんのお嫁さんは
もう2人目なんですってよ
と言われて…



そのたびに
私は喜ばせてあげられずに
落ち込むばかりでした…



落ち込んでいても
仕方がなく…
気を取り直しては
出来るだけ考えないように
していました



そんなある日の朝


胃がムカムカとして
とても気分が悪くなり
食欲もなく
食事の支度をしていると
立っていられないほど
具合が悪くなりました


時々
神経性胃炎になりました
ので
少し様子を見ていました
でも、ひどくなるばかりで


とても心配する夫に
「今日は会社を休んで
絶対に病院に行くんだよ!」
と言われました


私はその通りに
会社を休み病院へ行き
ました


近くのかかりつけの
内科医院でした


診察を受けると
お医者様が

「うーん、これは…
うちでは診られないからね
産婦人科に行っておいで」と
おっしゃり


私は「えっ…?」と
お医者様を見ると


にっこり笑って
「多分ね。気をつけて
行ってくださいね」と
おっしゃいました…


私は
よく分からないまま
診察室を出て長椅子に座り
お医者様の言葉を
頭の中で繰り返して
いました



うちでは診られないから
産婦人科に…
気をつけて行ってください…
産婦人科…


えっ⁈もしかして?
もしかして…



私は急に心臓が高鳴り
お会計の時に手が震えて
財布からお金を取り出せずに
受付の方から
「ゆっくりでいいですよ」と
言われました







産婦人科までの道のりを
全く覚えていません…


気が付くと
問診票とボールペンを持って
椅子に座っていました



診察が終わり

「ご懐妊です。
おめでとうございます」と
言われました



私は
「…ありがとうございます」
と言いながら

あふれる涙をこらえられず
泣いてしまいました


看護師さんが
「良かったですね」と
優しく背中を撫でて
くださいました



嬉しくて嬉しくて
早く夫に知らせたい気持ちを
抑えながら
お夕飯の買い物をして
花屋さんに寄って
帰りました



不思議なもので
あんなに具合が悪かったのに
それが「つわり」と知り
その瞬間に元気になった
のでした








家に帰ると
すぐに電話が鳴りました


夫「昼休みに電話したけど
出なかったから心配したよ
病院、どうだった⁉︎」


とても大切なことだから
私は夫の顔を見て
伝えたかったので


私「心配かけて
ごめんなさい、大丈夫よ。
詳しいことは
あなたが帰ってから
お話しします」と
言いました


夫は「大丈夫なら良いけど
でも、気になるな。
夕飯作らなくていいからね
何か買って帰るよ
何が食べられそう?」

私は「お夕飯のことも
大丈夫なの。
美味しいもの作れるわ。
だから急がないで
気をつけて帰って来てね」
と言いました


夫は心配そうに電話を
切りました






帰宅した夫は玄関で
「ただいま!大丈夫⁈」と
大きな声で言いながら
入って来ました


私はテーブルの上に
料理を並べて


ガラスの花瓶に
花屋さんで買って来た
薔薇の花を2輪と
薔薇のつぼみ1輪を生け
飾っていました



夫はそれを見て
「え?何か記念日だった?」
と不思議そうに
言いました



私は

そっとおなかに手を当てて

「命を授かりました」

と言いました



夫はとても驚いて
「えっ・・・?
病気じゃなかったんだ!
ああ!良かった!
子ども授かったんだ!
ああ、本当に良かったー!」

そう言いながら
私の手を握ると 
目にいっぱい涙をためて
いました




1輪の背の高い薔薇は
あなた

もう1輪の小さな薔薇は
わたし

その間のさらに小さな蕾は
この子


そう思いながら
花瓶に生ける途中で


「あなたは薔薇の蕾よ」と
そう言い続けた母の思いが
やっと分かるような
そんな気持ちがしました





つづく


*・*・*・*・*・*


紅葉してゆく木々の中で

うす紅いろの
八重咲きの桜が咲いて
いました







仲良く寄り添う
二輪の桜の蕾






青い空に向かって

微笑んでいるかのように
花ひらく桜





あなた…
小さな私が見えますか






女はであれ
賢く優しいとなれ

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