コイバナ
恋花
「薔薇の花びら」
彼のお母様に家庭の味を習い
私の嫁入り支度が
ようやく整いました
彼が電話で
「おふくろと、ばあちゃんが
喜んでいたよ。
特に、ばあちゃんが
アタシの若い頃にそっくり
って厚かましいこと
言ってたよ」
と、とても嬉しそうに
笑って言いました
彼が嬉しいと思ってくれる
それでまた私も嬉しくなる
そしてまた
私が嬉しいと感じることで
それでまた彼も嬉しくなる
多分幸せは
大きく立派な姿ではなくて
こんなにちょっとした
小さな姿をしているのかも
知れない
その小さな姿を感じて
見つけられる私でいたい
私の古い日記には
そう書かれていました
**・*・*・*・*・**
それから数日が経ち…
母が
「京子さん、先にお風呂に
入ってね」と
言いました
私は
「私は後からでいいのに」と
言うと
母は
「今日は京子さん先に入って」
と言います。
私は母がそう言うので
先にお風呂を頂くことに
しました
先に入浴剤を入れておこうと
お風呂のドアを開けると
浴室がまるで
薔薇の花園のように
なっていました
私は驚いて
立ちすくんでいました
すると後ろから母が
「何しているの?早く入って
あとで
背中を流しに来るわね」と
言いました
私は「うん…」と
言いました
ほんのりと
薔薇の香りに包まれた浴室
湯舟に浮かぶ
数え切れないほどの
うすいピンクの
.°**薔薇の花びら.°+*。
手のひらですくっては戻し
また
手のひらですくっては戻して
浴室の出窓には
白い天使たちの花瓶にも
薔薇の花が生けられ
そんな私を見下ろして
微笑んでいるみたいに見えて
すると浴室のドアの外から
「入るわね」と母の声
私は「どうぞ…」と
母は
「どう?素敵でしょ。」と
言いながら
私の肩にお湯を掬っては
かけてくれる
そして手のひらで
私の首すじや背中を
優しくなでながら
「覚えている?
お母さんがあなたに
あなたは薔薇の蕾だと
言っていたこと」
と母が言いました
私は「覚えている…
ずっと言われて来たもの」
すると母は
「薔薇の蕾を育てていたら
いつの間にか
コスモスになっていたわ」
と、ふふふと笑って
「気付いたかしら?」と
天使の花瓶の方を見て
母は言った
私は花瓶に生けられた
薔薇の花を見上げた
「よく見てごらん」と
母が言う
あ…
薔薇の花の中に
白いコスモスの蕾が
一輪だけ
一緒に生けられていた…
母はゆっくりと
私の肩をなでながら
「私の愛する子
幸せになってね。
誰よりも幸せになって。
私はあなたに
あたたかい家庭を
あげられなくて
ごめんね…」
そう言うと母の声は途切れ
すすり泣く声がした…
私の目からも次から次に
こぼれ落ちる涙が
薔薇の花びらへと
落ちてゆく…
母と共にひとしきり泣いて
落ち着いてくると
「湯当たりしちゃうわね」と
マスカラが頬に落ちた顔で
母が笑った…
私は私の肩を撫でる
母の手を握って
「お母さん
いっぱい愛して育ててくれて
本当にありがとう」
と言いました…
お風呂から上がり
長い髪を乾かしながらも
また涙がこぼれて
荷物が殆ど無くなった
私の部屋…
心を込めた
母への手紙が置かれた
暖炉の上に
月明かりが静かにさして
いました
それは
お嫁入り前日の夜のこと
でした
つづく
**・*・*・*・*・**
薔薇の花は
愛したとおりに
その姿を現して
魅せてくれますね**
女は花であれ
賢く優しい花となれ
**+.° ♡ °.+**
恋は一瞬
愛は一生