【在来作物】鍛え抜かれた『柿の腹筋』_伝九郎柿 | 【食文化研究日記】山形県の在来作物と東京レストラン

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在来作物は「お金のための作物」ではなく「命のための作物」。私たちはその作物を中心に携わる生産者、料理人、飲食店、消費者を介しその大切さを発信します。



『 伝九郎柿 』



伝九郎柿


山形県の庄内地方の在来作物の柿といえば 「庄内柿」 であるが、

実はその他にも複数存在する。


その一つが「伝九郎(でんくろう)柿」だ。

この柿は一時生産が途絶えていた


栽培がされなくなった背景には二つあると思われる。

一つは労力がかかること。

もう一つは脱渋方法によるビジュアル面の悪化である。


「伝九郎柿」の樹高は10m以上、高いものでは20mほどにもなり収穫が困難だ。

先端が二股になった6mほどの竹の棒を使い、

枝を挟んで柿ひとつずつをひねり取る。

通常の柿の
二倍以上は労力がかるだろう。


また、渋抜きは焼酎を使った方法では上手く渋が抜けないため、

お湯を使った「湯ざわし」という方法で渋抜きされる。

この脱渋方法により表面が酸化して黒くなりやすく、

皮にひびが入りやすい。

こうして、徐々に減っていったのだと思われる。



しかし、今この「伝九郎柿」が見事に復活を遂げようとしている。

それは、魔法のような甘さからだ。


皮をむくと果肉はきれいな濃い橙色。

肉質はスプーンですくえるほどの軟らかさとなり、

まるでマンゴーやパパイヤといった南国フルーツのような食感となる。

コクのある独特な甘さは、黒砂糖の甘さに例えられるほど。


種の多様性本物が見直されているのだ。



「伝九郎柿」を裏返して見てみると、

「庄内柿」よりも中心の窪みが深く十字の切られた凹凸が激しいのが分かる。

こうして記事を書いていると、なんだかそれが、

厳しい試練を耐え抜いてできた『柿の腹筋』のように見えてくるのは

私だけだろうか...