小料理屋 桜 98話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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桜子が自宅に帰ったのは1時を過ぎていた。

「遅かったな。」

一瞬、梓が離婚する事を話そうと思ったが、雄二は梓が結婚しているのは知らない。

それにこれは梓と桜子の間の話だったので止めておいた。

「うん、ちょっと梓さんと話が盛り上がっちゃって。」

盛り上がる様な話では決してないのだがしばらく話し込んでいたことには変わりない。

「ごめんね。夕食まだでしょ。」

「適当に作って食ったよ。桜子も仕事で忙しいだろうから。」

「そう言えば田淵さんの記事、来月に発売されるみたいよ。働く女性ってテーマらしいけど

私って働く女性になるのかしら。」

雄二は灰皿を引き寄せながら、

「なるんじゃないの?1人で小料理屋を切り盛りしてるんだから。」

そうして煙草に火をつけた。

桜子としては美由紀の店を引き継いだだけのつもりだったので自分が「働く女性」という意識はなかった。

そして紗香の雑誌が発売した日、雄二は嬉しそうにその本を買ってきた。

「見ろよ。桜子のページ。『艶のある小料理屋』だってさ。」

「『艶』って…。私、艶なんてないわよ。」

「いやいや。店では華やかだよ。だから常連のお客さんが来るんじゃないかな。」

桜子の店のページは他のページが半分に対して1ページ使っていた。

それ程紗香が気に入っている店なのだろう。

二人で紗香の本を見ていた時、突如桜子は胸にこみ上げる物があった。

早足で洗面所に駆け込み胃にあった物を全部吐いてしまった。

「どうしたんだ。大丈夫か?」

「ちょっと食あたりしたかも。大丈夫。」

でも桜子には心当たりがあった。

ここ2ヶ月、生理が来ていない。もしや…。

「明日、病院に行って来るから。」

「俺も行こうか?」

病院は産婦人科になる。下手に雄二に期待を持たせたくなかったので、

「平気。たいした事ないから。」

それでも雄二は心配そうな顔をしていた。