「小料理屋 桜」を最初から読まれる方はこちらから
桜子は店の2階に上がると着物に着替え、鏡を見ながら髪を上げた。
そしていつも通り店の前を掃除していると遠慮がちに声をかけられた。
「あの…。」
声の主は以前、クラブ梓で働いていた美穂だった。
「あら、美穂ちゃん。今日も梓さんのとこで事務の仕事?」
その問いに美穂は無言だった。
その代わりに帰ってきた答えは、
「あのお店は辞めました。」
一瞬何を言われたか分からずまばたきを何度もすると、再び、
「あのお店は辞めたんです。」
小さい声でもう一度答えた。
「そうなの?資格が取れたの?」
「はい。保育士の資格を取りました。今は保育園で働いてます。」
「立ち話も何だから中に入って。」
「いいんですか?まだ開店前なんじゃないですか?」
桜子はほうきを片付けると、
「もうほとんど掃除は終わったの。どうぞ。」
美穂は遠慮がちに店の中に入ると桜子は美穂の為にオレンジジュースを出した。
「良かったわね。資格が取れて。それでどこの保育園で働いてるの?」
「ここの角を曲がったとこの保育園です。」
「そう。梓ママも喜んでくれたでしょ?」
「辞めるのはちょっと困るけど喜んでくれました。子供相手の仕事だから意外と体力がいりますが
やりがいはあります。今日来たのはその報告です。
それじゃぁ失礼します。」
帰ろうとした美穂の背中に向かって、
「頑張ってね。」
というと振り向いて頭を下げた。