小料理屋 桜 82話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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結婚報告会の翌日、二人は美由紀と大森が書いてくれた証人欄を手に区役所に行った。

「不思議なもんだなぁ。こんな薄っぺらな紙で夫婦になれるんだもんだもんな。」

封筒に入っている書類から婚姻届を見て雄二は不思議そうに呟いた。

「私は2度目だけどね。やっぱり2回目でも緊張するわ。」

区役所のインフォメーションで婚姻届を出す場所を聞いて二人は手を繋いで

35番受付に行った。

「すみません。婚姻届を出したいんですが。」

その言葉に少し年配の職員はパッ顔を明るくさせ、

「おめでとうございます。書類のチェックをさせていただくので少々お待ち下さい。」

受付の前に座っているとしばらくして二人の名前が呼ばれた。

「書類に不備はありませんでした。おめでとうございます。記念に写真を撮って行かれますか?」

その問いに、

「どうする?」

と聞いたのは雄二だった。

「前も撮ったの。だから今日もデジカメ持ってきてるから撮ってもらいましょうよ。」

二人は受付の前で並んで立ち職員に写真を撮ってもらった。

「ありがとうございます。記念になりました。」

帰り際、

「今日だったわね。雄二さんの引っ越し。店は昼間閉まってるから手伝うわ。」

「悪いな。」

段ボールには雄二の最小限度の荷物がすでに積み込まれていた。

昼過ぎに引っ越し業者が来て雄二の引っ越しは始まった。

その間、業者の人間にお茶を出したりと桜子も何かと忙しかった。

夕方には引っ越しも終わり、

「ありがとうございました。明日は私の引っ越しもあるのでよろしくお願いします。」

引っ越し業者は暑い中での作業だったので汗はかいていたがすがすがしい表情をしていた。

「今日、店が終わったらこっちに帰ってくるんだろ。」

「うん、そのつもり。」

「つまみの残りでもいいから持ってきてくれよ。俺、全然料理が出来ないから。」

「わかった。」

そう言って桜子は店に行き開店の準備をした。

昨日、結婚報告会をしたのに大森は今日も来た。

「どう?婚姻届出した?」

桜子は大森の為に出羽の里という冷酒を出しながら、

「はい。彼の引っ越しの終わったし今日から彼と住みます。」

大森は出羽の里を一口飲むと、

「いや~。色々あったけどここまで来て僕も嬉しいよ。」

「これもみなさんのおかげです。ありがとうございます。」

昨日、結婚報告会をしたばかりなのに客は続々とやってきて皆、桜子の祝福の言葉を言っていった。

それだけで桜子は幸せだと思った。