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引っ越し業者が決まってから二人大忙しだった。
仕事をおろそかにする訳にもいかず仕事の合間を縫って引っ越しの準備をしつつ、
桜子は招待状も書かわなくてはいけなかったが、ふと思いついた
以前雄二に紹介された雄二のギャラリーで会った事がある内山の事だった。
彼の絵を招待状に出来ないだろうか…。
携帯電話を手にして、雄二に相談する。
「あのね、前に紹介してくれた内山さんってイラストレートの方がいらっしゃったでしょ?」
「あぁ桜子が絵を買ってくれた人だね。」
プロのイラストレーターに絵を頼むのは無理かと思ったが、
「彼に紹介状の絵を描いてもらえないからしら」
その質問に少し雄二は黙ってしまった。
「やっぱりプロの方だから無理かしら。」
「内山君、今イングランドに行ってるんだよ。連絡先は知ってるけど。」
「わがままかもしれないけど内山さんの絵で招待状を送りたいの。
だってすごく優しい絵なんですもの。」
桜子にとっては雄二との結婚は再婚になる。それぐらいのわがままだったら叶えてやろうと
雄二は思った。
「わかった。連絡してみるよ。でも内山君はイングランドにいるから無理かもしれないのを
忘れないでくれよ。」
「うん、分かっている。」
電話先の桜子の声は大学時代と変わらす雄二まで大学時代にタイムスリップさせた。
雄二は日本とアイルランドの時差を考えてから内山に連絡した。
「あっ内山君?寝てた?」
アイルランドとの時差は-9時間ある。
雄二が電話をしたのが昼の3時だから向こうは朝の6時になる。
だが内山は嫌な声一つせず答えてくれた。
「お久しぶりです。こっちはサマータイムになってきてるから起きてますよ。
どうしたんですか?」
「来ないだの個展で紹介した松嶋さんと結婚する事になったんだ。」
その先の言葉を言う前に内山から歓迎の言葉を言われてしまった。
「そうなんですか?!おめでとうございます!
いや~僕が日本にいたら直接お祝いをもってい行くのにのにな~。」
「ありがとう。それでね、松嶋さんが結婚招待状をぜひ君に描いて欲しいっていうんだけど
いま、君はアイルランドだろ?やっぱり無理かな。」
雄二自身は無理と分かっていたが返答は雄二が思っていたのと逆だった。
「描きます!描きます!いえ、描かせて下さい。原本を送りますから
それを印刷所に持っていくだけで済む様にします。」
内山からそんな返事をもらえるとは思っていなかったので雄二は驚いてしまった。