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雄二がパリに行って2週間。
ようやく帰って来る日が来た。
桜子は店を臨時休業にして空港まで出迎えに向かった。
落ち着かない様に入国ゲートから続々と人々が日本への帰途に着いているのを見ていた。
雄二からパリからの空港で教えられた到着時間は5時24分だった。
だが、パリに行った時の墜落事故に合いそうになった時の事を考えると
雄二の姿を見るまで安心できなく、何度も入国ゲートを見続けていた。
教えられていた時間に遅れる事20分。無精ひげを生やした雄二の姿を見ると
桜子は駆け足で雄二の元へ向かった。
「雄二さん‼!」
「桜子…。ごめん、色々迷惑かけて。」
そう言うと雄二は人目もはばからず桜子を抱きしめた。
「うん、うん。でも良かった。無事で。」
雄二は抱きしめていた腕をほどくと、
「本当だったら墜落事故に合った便に乗るはずだったんだ。
だけど、タクシーが遅れてさ。次の便にしたんだ。
不幸中の幸いだな。」
タクシーが遅れようが、墜落した飛行機に乗ってなかったのは運が良かったのかもしれない。
「とにかく帰ろうか。」
「荷物は?」
雄二の手には大きなリュックしかなかった。
「全部、国際便で自宅に送った。絵も買ってきたしな。
それに今度、うちのギャラリーで個展を開いてくれる人も何人か見つけて
契約してきたんだ。短い間だったけど充実してたよ。」
「じゃぁ、荷物が届いてるかもしれないから雄二さんのうちに帰る?」
「いや、桜子の作った飯が食いたいから桜子のうちに行きたいな。
2週間も日本食を食べてないと飽きちまった。」
雄二と桜子は、雄二の桜子の食事が食べたいと言うリクエストの為に
桜子の店に二人で帰った。
桜子は店の鍵を開けると、エプロンをして、
「何が食べたい?昨日、八百屋さんが来てくれたから結構食材はあるわよ。」
「じゃぁふろふき大根とか出来る?」
「時間かかるわよ。」
「その間に適当に作ってくれたらいいよ。」
2週間ぶりに雄二の為に料理を作る事が、事故の知らせを聞いてから
こんなに幸せな事とは桜子は思ってもいなかった。
思わず鼻歌を歌いながら料理を作っていた。
その桜子に向かって雄二が頬杖をしながら、まるで明日のスケジュールを聞く様に、
「なぁ、2週間離れてて分かったんだけど…。」
「なぁに?」
桜子は料理の手を休めず雄二が言いかけてる言葉の続きを聞いてた。
「親父さんが亡くなったばっかりだけど結婚しないか?」
その言葉に桜子の料理の手が止まった。