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日付が変わっても大森と桜子は空港にいた。
空港ではフランス便は墜落して生存者がいないとアナウンスが流れると
その便に乗っていた家族の泣き声が響き渡っていた。
遺族たちの悲しみに暮れてる姿を見ると、ますます雄二が乗っていた便ではなかったのではと
不安ばかりが膨れ上がった。
桜子の元へ空港職員が来て、
「失礼ですが、松嶋 桜子様でしょうか。」
「はい。」
疲れ切った顔で顔を上げると、
「先程、聞かれた堺 雄二様の搭乗記録はありませんでした。
きっと他のフランス行きの便に乗っていらっしゃったんでしょう。」
「本当ですか?」
「はい、ようやく墜落した便に搭乗していた方のリストが出来ました。
その中に堺様の名前はありませんでした。」
大森は桜子の肩に手をやって、
「被害にあった方たちには申し訳ないけど、堺君が乗ってなくて良かった。」
「はい…。でも、亡くなった方々がいらっしゃるんですね。」
「とにかく店に帰ろう。堺君から連絡が来てるかもしれない。」
夜中の1時を過ぎていたので二人はタクシーで店に戻った。
店の電話には留守電話に点滅があった。
再生してみると、確かに雄二の声だった。
『フランス便が墜落したんだって?俺はその便に乗ってなかったから無事だから心配するなよ』
その声を聴いただけで、桜子はカウンターに座り込んでしまった。
「よかったじゃないか。堺君が無事で。」
大森に言われると涙が零れてきた。
それは段々と大きな泣き声になり桜子は号泣してしまった。
もし、雄二が死んでしまったら、桜子の未来はどうなっていただろう。
そう考えるだけで恐ろしかった。
だが、雄二は無事だった。安堵からの涙だったのかもしれない。
次の日の朝、雄二から国際電話が入った。
「桜子?ごめん、心配かけて。」
「ううん、亡くなった方たちには申し訳ないけど雄二さんが無事でよかった。」
「こっちも大騒ぎだよ。200人以上の被害者が出たんだからな。
今は絵の買いつけどころじゃないから帰るのは2週間後位になるかもしれない。」
「わかった。でもパリは日本と違って危ないとこって聞いたから気を付けてね。」
1週間の予定が2週間になったのには落胆してしまったが、
墜落事故にあわなかっただけでも良しとしなければならない。