「小料理屋 桜」を最初から読まれる方はこちらから
翌朝、雄二と桜子の為に朝食を作っていると、雄二が言いにくそうに桜子に声をかけた。
「なぁ…。」
「どうしたの?」
料理の手を一旦止め、雄二の方を振り向いた。
「いや、メシ食ったら話すよ。」
「変よ。どうしたの?」
「大事な話だから後で話す。」
小さいダイニングテーブルに朝食を並べて二人は向かい合って朝食を取った。
洗い物をしてから、改めて雄二の前に座ると、
「大事な事って?」
「早いと思うけど3日後にパリに行って来る。」
「…。そう。」
雄二がパリに行く事は覚悟していたもののいざ日取りが決まるとやっぱり寂しい思いをした。
「大丈夫だよ。1ヶ月の予定だったけど1週間位で帰ってくる。」
「うん。」
「じゃぁ、パリ行の準備もあるから今日は帰るな。あっそうだ。今晩も店に来るから。」
「わかった。」
桜子は雄二を駅まで送り、雄二の姿が改札口から見えなくなるとため息をついてしまった。
雄二がパリに行く日、桜子は空港まで見送った。
「じゃ、行って来る。」
「気を付けて行ってきてね。」
「パリは行慣れてるから大丈夫だよ。帰って来るのもすぐだし。
桜子も親父さんの葬儀とかあって疲れてるんだから無理するなよ。」
そう言って桜子を抱きしめた。
桜子は涙が出そうになったが1週間で帰って来るという雄二の言葉を信じて
涙をこらえた。
店に戻り、つまみなどの準備をしていると大森が開店前にも関わらず店に飛び込んできた。
「桜ちゃん、堺君がパリに行ったのは今日だったよね。」
大森の口調には焦りの色があった。
「はい、午前中の便で。」
「その飛行機は何便で行ったの?」
「そこまでは…。何かあったんですか?」
大森のただならぬ表情に桜子は不安を覚えた。
「フランス便が墜落事故にあった。まさか堺君は乗ってないよね。」
「えっ?」
笑顔で搭乗口まで見送った雄二の笑顔が頭に浮かんだ。
「今日は店を休んで航空会社に問い合わせた方がいい。僕も行くから。」
大森も一緒に行ってくれると言っても不安ばかりが積もる。
「すぐ支度します。」
桜子はほぼ早足で2階に上ると軽装に着替えた。
空港に行くとフランス便に乗っていた家族であふれかえっていた。
人ごみをかき分ける様に生存者を案内している係りの元にたどり着いた。
「すみません、生存者の中に堺 雄二はいますか?」
「どの便に乗った方ですか?」
「それが分からないんです。」
「待ってて下さい。他の方の確認をするのでこちらでお待ちください。」
そう言われても桜子は落ち着かなかった。
なぜ見送った時、どの便に乗るのか確認しなかったのかが後悔された。