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美由紀をはじめ、大森が祝福の言葉を言ってくれていたが、
桜子の心は揺れ動いていた。
康之との結婚生活で失敗もしたし、今は何より小料理屋と言う酒を提供してる店で働いてる。
だが雄二は画廊というどちらかというと昼間の仕事をしてるし、
絵を買いつけに行く為に海外に行く事も多いだろう。
すれ違いの結婚生活になりはしないだろうか。
勢いで言ってしまったが本当に結婚しても大丈夫だろうか。
康之の二の舞になってしまわないだろうか。
大学時代の様にまた雄二はどこかに行ってしまわないだろうか。
一度、結婚に失敗すると嫌な事ばかり考えてしまう。
そんな事を考えていたら美由紀達は、
「桜も堺君と結婚の話とかしたいでしょ?私達はもう帰るから。」
そう言って席を立った。
帰り際、美由紀は桜子に、
「結婚なんてね失敗するかもしれないって考えてもしょうがないんだから。
今、堺君と結婚しようと思ってるならマイナスな事は考えない方がいいわよ。」
大森と店を出る時に小さな声でまるで桜子が考えていた事を予言でもしていた様に
助言をしてくれた。
雄二と二人っきりになってからお互い、しばらくの間静かな時間が流れた。
雄二は雄二でプロポーズしてからすぐに返事をもらえた事に驚いていたし、
桜子は桜子で先程から考えていた事が頭から離れなかった。
二人の沈黙を破ったのは雄二の方だった。
「桜子。」
名前を呼ばれただけでビクリとしてしまう。
「もうそろそろ閉店の時間だろ。あの…えっと…。」
その先をなかなか言わないので桜子は雄二が何を言いたいのかが分からなかった。
雄二は最後の酒を一気に飲んで、深呼吸をしてから、
「今日、うちに泊まりに来ないか。」
雄二の家に行くとなると二人共、大人なので何が起こるかは想像出来た。
だが、桜子はまだ不安だった。思わず、
「本当に私でいいの?」
雄二の顔を見ないで下を向きながら呟いた。
雄二は桜子を見て、
「それは俺も言える事だよ。本当に俺でいいのか?
俺は大学の時に桜子に寂しい思いをさせてしまった。
もう黙って海外には行かないけれど、その事を桜子は気にしてるんじゃないか?」
桜子は黙って首を振り、
「気にしてないって言ったら嘘になるけど、私って結婚に失敗してるでしょ?
それに私にはこの店があるから夜、仕事をする事になるし、
雄二さんは画廊の仕事があるから昼の仕事でしょ?すれ違いにならないか心配で。」
桜子の手を握った雄二は、
「もうあの頃の俺達じゃないんだ。お互いの仕事に理解をする事は出来るよ。」
「…。そうね。」