酒も進み、大森が桜子の思いもよらなかったことを提案してきた。
「せっかく結婚話が出たんだ。美由紀さんも呼んで報告したら?」
店にある時計はまだ9時前を指していた。
この時間ならいるかもしれないが、今日「付き合ってみたら」と言われたのが
いきなり結婚する事を決心した事に美由紀は驚くだろう。
「でも…。」
「こういう時は早めに報告した方がいいよ。」
そう言いながら大森は携帯を取り出して今にでも美由紀に連絡をしそうだった。
桜子はいつの間に大森と美由紀が連絡先を教え合ったのかが不思議だった。
「美由紀叔母様には私から連絡しますから。」
そう言っても大森は譲らなかった。
「俺も美由紀さんに久しぶりに会いたいからね。こういう事は大勢で祝った方がいい。」
桜子が止める前に大森は美由紀に電話をしてしまた。
「あっ、美由紀さん?大森だけど。今から桜ちゃんの店に来れない?
いい事があったんだ。」
今日は定休日のはずなのに電話をして来るとは自宅だと思ったのだろうと美由紀は考えた。
「今ね、店にいるんだ。だから桜ちゃんの店に来てほしいんだ。」
電話の向こうでは美由紀は何がいい事があったのだるうと思っていただろうし、
なぜ定休日に大森がいるのも不思議に思っていたらしかった。
「何かあったのかは分からないけど今から行くわ。もちろん桜もいるんでしょ?」
「もちろんだよ。そして美由紀さんがびっくりする様な人もいるよ。
待ってるからぜひ来てくれない?」
電話を切って大森は嬉しそうに、
「来てくれるってさ。美由紀さん桜ちゃんの結婚話が出たからびっくりするだろうね。」
勢いで雄二と結婚をする事を決めたがはたして美由紀は祝福してくれるだろうか。
今日の昼間に美由紀の自宅に行った時は雄二と付き合えばと言われても
何も言わなかったから。
30分後美由紀はやってきた。
「お久しぶりです。」
まず最初に客である大森に挨拶をした。次に視線が移ったのは雄二だった。
「びっくりする方って堺君の事だったのね。」
大森は大根の煮つけの後にもらった卯の花をまず口にしてから、
「まぁ座りなよ。」
美由紀は左端の雄二と右端の大森の間のカウンター席に座った。
桜子は美由紀が好きな静岡の蔵元の磯自慢を出してつまみには鰯のつみれ汁を出した。
本当に大森は雄二と結婚する事を決めた桜子の決心を言うのだろうか…。
「俺もね、さっき聞いたばっかりなんだけど…。」
大森は先を言わずにもったいぶった様だった。
「何でしょうか。」
美由紀は鰯のつみれ汁を口に入れながら大森の次の言葉を待った。
「桜ちゃん、堺君と結婚するんだって。」
まるで自分の事の様に嬉しそうに美由紀に告げた。
その言葉を聞いて美由紀は交互に桜子と雄二を見た。
「そうなの。おめでとう。」
美由紀の表情もどこかしら嬉しそうだった。
「叔母様、まだ決定した事じゃないのよ。出来たらいいなって思っただけ。」
「藤堂君の事があってから桜は男性と距離を置いてたからね。
結婚を意識しただけでもよかったんじゃない?兄さんには報告したの?」
「…。それが。さっき決めた事だからまだ言ってない。
お父さんに許可ももらわずに結婚をするかもしれない事を決めちゃって
もしかしたらお父さん怒るかもしれない。それだけが心配。」
磯自慢を飲みながら、
「大丈夫よ。いつまでも桜も独り身って訳にはいかないでしょ。
もし反対したら私からも言うから。」
康之と結婚した時も感じた事だったが結婚を決意するのはタイミングなんだなと思った。