関根さんの店で結婚報告パーティをしようと聡に提案した翌日私は関根さんの店に行った。
「あれ?今日は映画は観てないの?」
「うん、ちょっと関根さんにお願いがあって来たの。」
今日は映画チケット割りがないから定価でアイスコーヒーを注文して関根さんの手が空くのを待った。
お客さんが3組位になった時関根さんはエプロンを外して私の席に来てくれた。
「どうしたの?お願いって。昨日、やっぱり尾山君と喧嘩でもした?」
「ううん。私に会いたいって人がいてね。それで早く聡ん家に来てほしかっただけみたい。」
関根さんもホットコーヒーを持ってきていて、コーヒーの湯気を口元に揺らしながら私の話を聞く
体勢になってくれた。
「それは置いといて、関根さんの店って貸し切りって出来る?」
「出来ない事はないけど、時間帯によるなぁ。」
私は昨日、招待客を書いた紙を関根さんに見せながら、
「聡とね結婚する事にしたの。でも式場で結婚式は挙げないで出来ればここで親しい人だけ呼んで
結婚報告のパーティをしたいんだけど、出来る?人数はこれだけ。」
私達二人の共通の友人と言えば派遣会社の人がほとんどだったけど、それでも20人位はいた。
もちろん私の担当をしている川田さんも招待客に入っている。
関根さんはその招待客のリストを見ると嬉しそうにうなずいた。
「そういう事だったら大歓迎だよ。人数もこのぐらいだったら入れるし。立食形式にする?
それとも何か料理を席に持っていく?それでスタッフの数も変わってくるから。」
「関根さんがやりやすい方でいい。だって本当だったらここは貸し切りなんてしないでしょ?」
招待客リストを見ながら関根さんは、顎を撫でながら、
「この人数だったら立食形式の方がいいかもしれない。
その分美加ちゃん達の挨拶周りが大変かもしれないけど。
だから簡単で良かったら披露宴方式でもいいよ。
でも嬉しいな。僕の店で美加ちゃん達の結婚報告をしてくれるなんて。」
私はアイスコーヒーを一口飲むと、
「この提案は私から聡にしたんだけど、聡も乗り気なの。今までの私達を見ていてくれた関根さんにも
報告が出来るでしょ?」
関根さんはちょっと意地の悪い笑みを浮かべると、
「だから言ったでしょ?僕は予見できるって。美加ちゃんが尾山君のお嫁さんになるよって言ったよね。」
「カフェも兼ねて占い師も合ってるかも。」
そう言うと二人で笑った。
関根さんが立食形式も披露宴形式も出来るって言ってくれたから、これは聡と相談になるな。
「じゃぁ立食形式にするか披露宴形式にするかは聡と話し合ってからまた来るね。」
「でもいいの?式場で結婚式を挙げなくても。」
「私達ってそういう形式ばった事が苦手だから。それに私達の結婚を理解してくれる人だけが
分かってくれたらそれだけで十分だし。相談はこれだけ。」
そう言って立ち上がろうとしたけど一つだけ聡には相談できない事があった。
座り直して関根さんに小声で聞いてみた。
「映画館の聡子ちゃんと良子ちゃんは招待しようと思ってるんだけど、徳永君はどうしたらいいと思う?」
腕を組みながら関根さんは考え込んでしまった。
そうだよね。このショッピングモールの人のほとんどが徳永君の私への好意は知ってる訳だし、
同じ職場の聡子ちゃん達は呼んでも徳永君だけ呼ばないって言うのも変だし。
これは私が意識し過ぎかもしれないけど。
「徳永君にとって酷かもしれないけど招待した方がいいと思うな。
それできっぱり気持ちに蹴りもつくだろうし。確か徳永君って美加ちゃんより年下だったよね。
これから先、きっと美加ちゃんと同じ位素敵な子との出会いがあるよ、若いんだから。」
私が徳永君が思ってる程の女性とは思ってないけど、彼にはまだまだ未来があるんだから
関根さんの意見は大きかった。
「やっぱりそう思う?実は悩んでたんだよね。聡には言えないし。でも難しいね。人の気持ちって。
徳永君の気持ちに答えられたら良かったんだけど、私はやっぱり聡と結婚したいし。」
「いいんだよ、これで。きっとね。徳永君も経験を重ねるっていう意味ではいつかは
乗り越えないといけない事だし。」
「相談に乗ってくれてありがとう。」
帰りがけ、関根さんはエプロンをしながら私の背中に声をかけてくれた。
「なにはともあれ、結婚おめでとう。これからは夫婦としても来てくれたら嬉しいな。」
「もちろんよ。関根さんの店は私達の軌跡を知ってるとこなんだから。これからもよろしくお願いします。」
あとは聡と住むうちを探さないと。何件か物件は見てきたけど、これと言ったうちには巡り合えてなかった。
それと父さん達にも報告しないと。聡のご両親にもご挨拶に行かなきゃいけないし。
結婚って色々な事をしなきゃいけないのね。
川田さんが結婚は簡単に決めるものじゃないって言ってたのが分かった気がする。
こんなに大変とは思ってもいなかった。