私の口から出た言葉は自分でも驚く事だった。
「もし、聡がイラクにまた行く様な事があるんなら私も行く。」
言った自分も驚いたけど聡は始め母さんも父さんも驚いた顔をして私を見た。
私、なんでこんな事言っちゃったんだろう。
「言った美加がそんな顔してどうするの。」
母さんが呆れた顔しながら私に言った。
「言った自分もびっくりしてる。でも、もし本当に聡がイラクとかにいくなら私も行く。」
母さんは呆れてたけど、父さんは静かだけど怒ってるのが分かる。
父さんって怒れば怒る程、黙っちゃうんだよね。そして今むっとした顔をして黙っている。
父さんが怒るのはわかるけどなぜか聡まで怒り出した。
「美加!そんな事簡単に言うな。いつ、死んでしまうか分からない様な場所だし
食べ物だってまともな物がないかもしれない場所だってあるんだ。」
一方的に言われるとこっちだってムっとしてしまう。
私はテーブルに手を置くと、
「簡単に言ったんじゃないもの。確かに自分でも言った事にびっくりはしたけど
言葉として出たのは前々から考えてたからだよ。」
「今までそんな事話し合った事なんてなかったじゃないか。」
「言えなかったのよ。絶対反対するって思ってたから。」
「じゃぁなんで今言うんだ。こういう大事な事は結婚にも関係してくるから前もって
話し合うべきじゃないのか。」
「だから、言ったじゃない。言えなかったって。」
突然、喧嘩を始めた私達にかえって父さん達の方が驚いてた。
さっきまで不機嫌だった父さんの方が、私達の間に入ってきた。
「お前達、喧嘩をしにきたのか?結婚報告に来たのか?」
間に入って喧嘩を止めてくれようとしたのはわかっていたけど、今は聡に反対された事の方が
頭に来て父さんの言葉は邪魔なだけだった。
「父さんは黙ってて‼」
私のあまりの迫力に父さんは黙っちゃった。私も父さんにこんな事言ったの初めてかもしれない。
そして聡とこんな激しい喧嘩をしたのも…。
こういう時、母さんが一番強いのかもしれない。
「3人共いい加減にしなさい!」
母さんが持っていたトレーをテーブルに力いっぱい叩きつけた。
「尾山さんも美加も何しにここに来たの?美加はなんで今までその事を尾山さんに言わなかったの?
尾山さんもです。もし美加の事を愛して下さってるのなら察して下さっても良かったんじゃないですか?
お父さんもお父さんです。うろたえちゃって、情けない。
こういう時一番どっしりと構えてないといけないのはお父さんでしょう。」
私達三人を叱りつけるとテーブルに腰を下ろして、持ってきたお茶を飲み干した。
唖然と母さんを見てしまった私達はなんだかバカみたいだった。
母さんは湯呑み茶碗を置くと、
「誰も言い分はないの?」
って私達を見渡した。
「いっいや。おろおろしてしまった私が悪い。」
まず父さんが謝る。
「ううん。最初に聡に話をしてなかった私が悪い。」
そして私が謝る。
「いや、美加の気持ちを分かってなかった俺が悪いんです。」
最後に聡が謝った。
ここは父さんが言う通り喧嘩をしに来たのか結婚報告をしに来たのか分からなかった。
まるでファルスだ。