昼食を終えて聡と私は時間をずらして会社に戻った。
一緒に帰ったりしたら、勘がいい人だったら私達の事かもしれないし。
何より秀美ちゃん。完全に疑ってる。
まだ休憩時間があったから昨日教えてもらったイタリア語の勉強を始めた。
そこへ派遣会社に同期入社した菜々から声をかけられた。
「ちょっとあんた、尾山君とヨリを戻したの?」
その言葉にびっくりしちゃった。だって私と聡が付き合ってたのを
知ってるのは関根さんだけだと思ってたから。
私の顔を見ると、
「その表情はビンゴね。」
「なんで尾山さんと私が付き合ってたの知ってるの?」
菜々は苦笑しながら、
「前にここで派遣として来た尾山君とよく昼食を一緒に食べに行ったり
映画を毎週の様に通ってたからよ。」
「よく私達が映画を観に行ってたの知ってるね。」
「妹が映画館でバイトしてるのよ。」
どこで誰が見てるか分からないもんだなぁ。
私と菜々が話してると秀美ちゃんが帰ってきて嬉しそうに報告した。
「さっき定食屋さんで近藤さんと係長が同じ席にいたんです。
ここまでくると付き合ってるとしか思えませんか?」
「そんなのうちの派遣会社の人間だったらほとんど知ってるよ。
あなたは半年前から登録してないから知らなかっただろうけど。」
秀美ちゃんは自分の事でもないのに嬉しそうに、
「良かった~。仕事一筋だと思ってた近藤さんがちゃんと恋愛してて。
でも社員と契約社員が付き合っちゃダメって言われてませんでしたか?」
「それは暗黙の了解なの。」
あ~あ。これで私と聡が付き合ってるのが会社全体にわかっちゃうな。
私が二人に囲まれて落ち込んでると聡が私達の元へやってきた。
「どうしたの?近藤さんが落ち込んでるけど。なんか仕事でミスでもした?」
その問いに私は一言だけ答えた。
「バレた。」
「は?」
「私達が付き合ってるの。」
びっくりした様に二人を見ると視線を私に移して、
「バレたのはしょうがないよ。別に悪い事をしてたわけじゃないんだから。」
「聡はいいかもしれないけど私が困るの。次の派遣の契約が出来なくなっちゃうかもしれない。
うちは暗黙の了承で社員と派遣が付き合うのはオッケーなんだけど
基本的には認めらてないからね。それに私の条件で面談してくれるとこ少ないんだから。」
私が話した事に食いついたのは秀美ちゃんだった。
「近藤さん、係長の事『聡』って呼んでるんですね。」
聡と付き合ってるのがバレたからもう私は開き直ってた。
「そう。」
「俺は『美加』って呼んでるだけどね。でもやっぱり隠し通すのは無理だったかぁ。」
こんなに重大な事なのに聡は能天気に笑っていた。
あ~あ。川田さんに何か言われるだろうな。
聡が派遣の時私達が付き合ってたのは知ってたかもしれないけど
また付き合いだしたって聞いたらお説教されそう。
菜々と秀美ちゃんにはバレたけど他の人には言わないで欲しい。
「あのね、二人には私達の事がバレちゃったけど他の人には言わないで欲しいの。」
「何でですか?」
「仕事がやりづらくなるでしょ?」
「でもそれってもう遅いです。聡美ちゃんに言っちゃいました。
もし私が黙っていても聡美ちゃん経由で皆にバレるのは時間の問題だと思いますよ。」
私はうなだれるしかなかったけど、聡はそんなに気にしてない様だった。
昼休みも終わり、聡に決済してもらわない書類があって聡のとこに行く度に
皆の視線が私達に注がれる。
この会社、気にいってたんだけどな。
大体毎週水曜日が休みで、定時で帰って時給2000円の派遣社員を雇ってくれる会社なんて
ここ位だろうから。
今日は映画は観ないけど関根さんのとこに行こう。
皆にバレちゃったこと相談したいし。
定時になると私は帰り支度をして帰ろうとした。
そしたら誰だろう。社員の人かな。背中姿だったからわからなかったけど
「ダーリンが働いてるのに、もうお帰りですか~。」
って声が聞こえてきた。
私はその言葉を無視して関根さんの店に行った。
「関根さ~ん、どうしよう。」
「どうしたの?映画は今日観たの?」
「ううん。会社でマズい事になって。あ、アイスカフェモカお願いします。」
ポイントカードとコーヒー代を渡すと、
「ちょっと待ってて。話は後で聞くから。」
そう言って私に注文したアイスカフェモカを渡してくれた。