The Movie 3話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

「The Movie」を最初から読まれる方はこちらから


木曜日、出勤すると係長の機嫌が悪い。


私が毎週水曜日に休んでるのが原因なんだけど正社員と違って派遣社員は


いつ、首を切られるかという恐怖と戦ってる。まぁ正社員でもリストラされる事はあるけど。


「派遣さん、このデータまとめてくれる?」


係長は私達派遣社員の事を『派遣さん』と言う。


私が今勤めている会社には派遣社員が正社員の半分位いる。


それだけ安月給で働いて、かついつでも首に出来る人が必要なわけだ。


でも私は内心では『派遣さん』なんて呼ばれるのに不快感を覚えていた。


名前があるんだから名前で呼んで欲しい。


無表情で、


「わかりました。」と言って自分のデスクに戻ると


正社員の笹原さんが声をかけてきた。


「あんな正社員と契約社員を区別する奴なんて放っておけよ。」


「放っているけど、『派遣さん』って呼ばれるたびに嫌な気持ちになるのはしょうがないわ。


私には近藤って言う名前があるんだから。」


「まぁまぁ。噂だけどあの係長移動が内定したらしいぞ。


次の係長がそんな奴じゃない事を祈るばかりだな。」


「ふ~ん。」


私は係長から渡されたデータをまとめながら笹原さんの言ってる事を聞いてた。


どうせ、次の係長が来たって正社員と派遣を区別するんだろうな。


それは今まで派遣で仕事をしてきたからわかる。


あんまり期待はしない方がいい。


それより来週観る映画どうしよう。


関根さんも良子ちゃんもお勧めの『いつまでも』を観るべきか映画リストに入ってる


双子の兄弟の物語の映画を観るか迷ってしまった。


たまには人に勧められた映画を観るのも悪くないかもしれない。


ヒットしてるみたいだし。定時の5時になると私は帰り支度を始めた。


私は残業なんてするつもりはなかったし、残業なんて仕事が遅い人がするものだと思ってるから。


「近藤さん、もう帰るの?」


笹原さんが帰り支度をしてる私を見た。


「はい、定時ですから。」


「僕も帰ろうかな。ちょうど仕事に蹴りがついたんだ。」


「…。いいですけど私、行くとこありますよ。」


「どこ?」


「映画館です。レイトショーだとチケット代が安くなるんです。」


レイトショーで観る映画はネットで調べてあった。でも関根さん達が勧めている『いつまでも』も


気になっていた。映画館に着いてから開始時間を見て映画は決めよう。


「それ、僕も行こうかな。」


「笹原さんも?」


「近藤さんが好きな映画ってどんなのかなって思って。ダメかな?」


「私は構いませんけど。」


「じゃぁ行こうよ。」


本当だったら映画は一人で観るのが好きなんだけど笹原さんが熱心に観たいって言ってるから


今日は笹原さんと映画を観に行く事になった。


「じゃぁお先に失礼します。」


残っている社員に挨拶をしたけれど、私を見る視線は好意に満ちたものとは程遠いものだった。


いつも行く映画館に着くと良子ちゃんと同じくらい顔なじみの徳永君がチケット売り場にいた。


レイトショーだからお客さんは少ない。チケットを買うのには時間はかからなかった。


「あれ?今日は近藤さん、一人じゃないんですね。彼氏ですか?」


「違うよ。会社の同僚。」


「ふ~ん。」


接客業なのに徳永君はなんだかおもしろくなさそうな表情をした。


「良子ちゃんに『いつまでも』を勧められたんだけど、今やってる?」


「あ~それは、今日の上映は終わっちゃいました。」


「じゃぁ…。」


私は今上映されてるのを写してる画面を見ると、


「『あの日、そして今』は?あと30分で始まるでしょ?」


「『あの日、そして今』ですね。カップルシートにしますか?それとも普通の席にしますか?」


「普通の席でいいよ。それとこれ。」


私はいつも持ち歩いてるポイントカードを徳永君に渡した。


「今回は2人分だから20ポイントですね。あと10ポイントで無料券ですよ。」


私はチケット代を払おうとしたら笹原さんが私が財布を出すのを止めて、


「ここは僕が持つよ。加藤さんに無理矢理ついて来たんだから。」


財布から二人分のチケット代を出して徳永君に渡した。


代金を受け取った徳永君は無表情で席の案内をした。


いつもだったら明るい子なんだどなぁ。