幼馴染み 第2章 最終回 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

「幼馴染み」を最初から読まれる方はこちらから


「幼馴染み 第2章」を最初から読まれる方はこちらから


式の3日後、私と守は入籍した。


まだ海外での撮影がある真吾は式の次の日に入籍したらしい。


正也と遠藤さんは仕事が忙しいらしくまだ入籍はしていなかったけど、


それでも左手の薬指には私達が計画した結婚式で交換した指輪があった。


前に隣アパートに住んでいた一ちゃんの言ってた事が分かった気がしてきた。


『幼馴染みってこれから大事な存在になると思うよ』


色んな事があったけど、それは私達のかけがえのない宝物になっていた。


それぞれの仕事が忙しくて皆一緒に会う事は出来なかったけど、


年に1度は会う様に時間を調整して飲みに行ってた。


新宿にある居酒屋「生々堂々」で久しぶりに皆と会った。


なぜこの居酒屋でいつも飲んでいるのかと言うと名前が気に入ってたから。


私達はいつでも『正々堂々』としていたし、これからもそうありたかったから。


あの私達が仕掛けた結婚式から半年が経っていた。


私は私で博物館での調べ物に忙しかったし、守は守で東京郊外の病院とはいえ


病院にお医者さんが少なかったから、夜勤の事も多かった。


それでも皆で集まる時は時間を作って必ず参加してくれてた。


真吾が海外の仕事が終わって日本に戻ってきた時に皆で飲む事にした。


「久しぶり。海外での仕事はどう?また危険な所に行ってない?」


私は真吾が進んで戦争中の国に行くのが心配だった。


「行く事が多いな。やっぱり戦争で被害に合うのは弱者だけだ。


地位の高い奴程、安全な場所にいやがる。自分の子供さえ前線に送らないんだから。


俺はその弱者である人達を撮っていきたいんだ。」


高校の時、おちゃらけてた真吾とは思えない様な言葉だった。


それだけ私達は大人になったんだなぁって思った。


高校生の時はあれ程「大人」と言うカテゴリーに入るのは嫌だったけど自然の摂理で


私達は1年ごとに1つ歳を取る。そして大人になるにつれて高校時代では


考えもしなかった事を考える様になった。


皆が真吾の真面目な言葉に何も言えなくなってしまうと、真吾は


「でも戦場でもいい事があるんだぜ。」


笑いながら場を明るくしようとした。


「明るい事って?」


「子供だよ。」


「子供?」


「どんな状況に置かれても、子供はすっげぇいい顔するんだぜ。」


それは少しだけど、私達の心に温かい風を吹かせる様な事だった。


私は妙子さんのビーフシチューにも負けない位美味しい、牛トロシチューを口に運びながら


「真吾も立派なカメラマンになったんだね。」


滅多に真吾を褒めない私がここまでカメラマンの仕事に誇りを持ってる真吾を尊敬した。


「守は?相川らず忙しいのか?」


正也は萬寿って言う日本酒を手酒して守の事に話題を変えた。


「まぁね。小さい病院だけど患者さんにやれる事はやってるよ。夜勤が多いから


琴音には悪い事してるかもしれないけど、俺の仕事に理解してくれてるから。」


そう言っていつからだろう。癖になってる私の髪を撫でた。


「守は高校1年の時から医者になるって言ってたからな。琴音はそれをずっと見てきた。


守の医者の仕事に理解を示すのは当たり前だよ。」


正也は「おこげ」って言う変わった名前の焼酎をボトルで注文していて


水の様に飲んでいた。さすが妙子さんとオーナーの息子だな。お酒にすっごく強い。


「そういうお前はどうなんだよ。遠藤さんとまだ籍は入れないのか?」


「もう結婚してる様なもんだよ。一緒にも住み始めて何年も経ってるしな。」


遠藤さんはその言葉に何も言わなかった。


「私、思うんだけどやっぱり籍は入れといた方がいいよ。一緒に住んでるのでも


籍を入れてるか入れてないかは大きいと思うよ。」


「私もそう思う。真吾君と区役所で婚姻届を出した時、ただ同棲してるのと


法的に夫婦になるのは違うと思ったもの。」


正也と遠藤さんは顔を見合わせると、


「ちゃんと結婚してるお前らに言われると説得力があるな。母さんに相談して


来週にでも婚姻届出すよ。」


それを聞いた遠藤さんは少し涙ぐんでいたみたいだった。


きっと正也のこの言葉を待ってたんだろうな。


高校1年の時に出会って、何年の年月が流れただろう。


それでも私達は大切な友達であり大事な夫だ。


1回だけ守と喧嘩をしかけた事があった。あれは確か大学生の時だったと思う。


それ以来私達は喧嘩一つもしていない。


きっと私自身があの時以来守の事を信じようと決めたからと、


守が広い心で私を見守ってくれてるからじゃないかな。


私は追加で皆の分のお酒とおつまみを注文すると、


「ね、私達って素敵な友達だと思わない?」


誰に言うわけでもなく皆を見渡した。


それに対して皆は無言でうなずいた。


私はこれからもおばあちゃんになっても守達がおじいちゃんになっても


ずっとこの関係でいられたらいいなって思いながら皆の顔を見た。


あの高校時代にはもう戻れない。だけど私達はこれからも色んな経験をしていって


こうやって集まるんだろうな。


私を含めてここに集まっている皆は私の誇りだと自信を持って言える。


それって素敵な事だと思った。


***Fin***