幼馴染み 第2章 98話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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大学院生2年の春に私は公務員の資格の試験を受けた。


試験結果発表の通知が来た日は春を通り過ぎて初夏ではないかと思う程暑かった。


ポストに封筒が入ってた時、びっくりしたけど、いざ開封するとなると一人では怖かった。


(守が帰ってくるまで待とう。昨日夜勤だったから夕方には帰るし)


私は落ち着かなかったから紅茶を入れる事にした。


こないだ貴美子さんの店で買ってきたディンブラを新しく開けて一口飲む。


それだけで少しは落ち着いた。


テーブルには通知が書いてある封筒がある。これで私の運命も決まる訳だ。


守は1時間後に帰ってきた。


「ただいま。」


「おかえりなさい。あのね、公務員の資格の合否の通達が来たの。」


「それで?どうだった?」


「怖くてまだ開封してない。」


守はテーブルに置いてある封筒を天井のライトに掲げると中に何が入ってるのかを見た。


「なんだかたくさん書類が入ってるみたいだよ。思い切って開封しろよ。いつまでもそのままって


訳じゃないかないだろ。」


私は机の上にあるはさみを手にするとゆっくりその封筒を開封した。


中には何枚かの便箋が入っていて、当然ながら合否の書いてある便箋も入っていた。


恐る恐る見ると…。合格だった。他の書類も見たけど公務員の資格が取れたのを


区役所にこの便箋を持って手続きをする案内が書いてあった。


「どうだった?」


「合格してる…。」


「やったじゃないか。これで就職にも有利になるな。」


「よかったぁ。本当は公務員の資格がなくても博物館によっては


就職出来るとこがあるんだけど、ないに越した事はないでしょ?」


「資格は持ってて損はないからな。頑張ったな。」


守は私の髪を撫でて笑ってくれた。


大学院2年生の初夏になると本格的な就職活動を始めた。


守も大学病院に残るつもりはないらしく、東京郊外の病院に就職した。


段々と守と私が結婚出来る地盤が出来てきた。


もう私達は24歳。結婚適齢期といってもいい歳になった。


就活も兼ねて、結婚の事を考える様になった。でも私と守の結婚式には私なりに守に秘密にしてる


結婚式を挙げたいと思っていた。今はそれは言えないけど。


その話をするべく三浦さんと遠藤さんに連絡を取った。


「あっ、三浦さん?久しぶり。」


「ホント、久しぶり。貴美子さんのお店にも一緒に行く機会がなくなっちゃったしね。」


「三浦さんは社会人だし、私は大学院の学生だもの。しょうがないよ。


それでね、真吾には内緒にしておきたい話しがあるんだけど、


マリアージュ フレールの銀座店で話する時間取れる?」


「そうねぇ。今、真吾君はアフガニスタンに行ってるのよ。」


その声は少し元気がない様だった。それもそうだ。あんな危険な所に行ってるんだから。


「そんな危険な所に?今、戦争中でしょ?」


「そこの現状を撮るのが自分の使命なんだって。私は毎日生きた心地がしないわ。」


「そうよね…。」


三浦さんは自分が不安になってるのにも関わらず、気丈に明るい声を出してくれた。


「それで?内緒の話って?」


「それは会ってからのお楽しみ。私はほとんど就活終わりかけたから時間取れるけど


三浦さんはどう?」


「そうねぇ。今週の土日はちょっと決算で忙しいから来週の週末だったら時間作れる。」


「じゃぁ、遠藤さんにも連絡してまた折り返し電話する。」


電話の向こうで三浦さんが意外な顔をしてるのが目に浮かんだ。


「遠藤さん?もう帰ってきてるんだよね。」


「そう。女子会じゃないけど、彼氏チームには内緒の話。」


「わかった。大原さんの事だから面白い事思いついたんでしょ?楽しみにしてる。」


次は遠藤さんに連絡する番だった。


「遠藤さん?大原です。今いい?」


「平気よ。ちょうど正也君の食事作り終わった所だから。」


「一緒に住んでるの?」


「うん。私がイギリスから帰ってきてから位かな。」


「そうだったんだ…。それでね、正也には内緒で三浦さんと遠藤さんに話があるの。


来週の週末、時間作れる?」


「ちょっと待って。スケジュール見るから。」


しばらく保留音が流れていたけれどそれはそんなに長い時間ではなかった。


「日曜なら平気。どこに行けばいい?」


「銀座にマリアージュ フレールっていう紅茶専門店があるの。有名な店だからすぐわかると思う。


そこに1時で。店の住所教えておいた方がいい?」


「大丈夫。マリアージュ フレールでしょ。ネットで調べるから。でも正也君には内緒なのね。」


「うん。」


三人で集まるのは何年ぶりだろう。私は三浦さんにまた電話して待ち合わせの時間と場所を知らせた。


あくまでも彼氏には内緒って事を重要という事を忘れずに言って。


その後は私は大忙しだった。就職先に内定をもらった訳じゃないから、就活もしなきゃいけなかったし


三浦さんと遠藤さんに教える事を調べなくてもいけなかった。


私が就活以外で忙しくしてるのを守が見て、


「琴音、今度は何企んでるんだ。」


って笑いながら聞いて来た。


「秘密。」


私の本当の就職先希望は東京国立博物館だったけど、今は求人をしていなかった。


色々探してみると下請けで博物館の資料館での仕事をする事が出来る事が分かった。


それでも学芸員資格認定の試験に合格した。それだけで大収穫だ。


私は何社か連絡を取り、面接もしてなんとか1社に合格する事が出来た。


面接官の人が、


「大学院を卒業予定の人でここまで歴史の知識がある人ってなかなかいませんよ。


しかもあの安藤教授のお墨付きだ。これなら安心して勤めてもらえる。


大原さんだったらうちで働く事は大原さんにとってもわが社にとっても有意義な事になるでしょうね。」


って褒めてくれた。


今までやってきた事は無駄じゃなかったって事が嬉しかった。


そして三浦さんと遠藤さんと久しぶりに会う日。


私はフルーツ ティー ノエルって言う紅茶を飲みながら二人を待った。


二人は待ち合わせの10分前には店にやってきてお互いに久しぶりの再会を喜んだ。


「久しぶり。大原さん、また髪伸びたのね。」


「三浦さんこそ。私はまだ学生だから三浦さんの方が大人ぽく見えちゃう。」


「そう?」


三浦さんに遅れる事5分。遠藤さんも店にやってきた。


「遠藤さん、こっち。」


元々大人っぽい人だったかけど、正也と一緒に住んでるからかな?


私達の中で一番大人っぽく見えた。遠藤さんは微笑むだけで私達の席に着いた。


「ここ、ちょっと高いけど紅茶が美味しいの。」


「大原さんは何飲んでるの?」


「フルーツ ティーのノエルって言う銘柄。」


「じゃぁ私もそれにしようかな。」


三浦さんも遠藤さんも私が飲んでいる紅茶を注文すると、


「ねぇ、内緒の話って何?」


三浦さんの方が興味深々に聞いて来たけど


遠藤さんは紅茶専門店自体が珍しいらしく店内を見渡してた。


そこで私が二人に話した事は二人を驚かせるのに十分な事だった。


三浦さんが私が話した計画を聞くと、私の方が慎重派なのに考え込みながら、


「そう簡単にいくかしら。」


「それをうまくいかせるのよ。だって私達って高校の時からの友達じゃない?


こんな事が出来たら素敵だと思うんだけど。」


遠藤さんは紅茶の香りを楽しむ様に飲みながら、


「私は大原さんの計画、面白いと思う。きっと正也君だったら簡単に騙されそう。」


「でしょ?真吾もここまで考えないと思うのよ。」


「確かにこんな計画考えるのは大原さんらしいわね。」


私達三人は顔を見合わせて、


「どう?やってみない?」


「私も協力するわ。」


「私も。こんな素敵な事、なかなか思いつかないわよ。」


こうして女性同士の秘密の計画は実行に移される事になった。