二人で一人 72話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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江崎が検査をしている間、綾瀬が麻子の元にやってきた。


「江崎のドナーになるのなら、小林さんにも検査をして頂けないといけません。


あいつに合った腎臓かどうか確認が必要です。」


「わかりました。」


麻子は立ち上がり、


「よろしくお願いします。」


と、頭を下げた。


血液検査に始まり、MRなど様々な検査を麻子も受けた。


先に検査が終わったのは江崎の方だった。


「本当はあいつをドナーにするのは反対なんだ…。だって100%安全って訳じゃねぇだろ?」


「そうだな…。確かに手術は危険を伴う。だが、しないとお前の身体がもなたい。」


その時、検査を終えた麻子がやってきた。


「綾瀬さん、私で彼に役に立つ事はあるんでしょうか?」


「検査結果で異常はありませんでした。おそらく大丈夫でしょう。」



数日後、二人の移植手術が始まった。


中島は休みを取り、二人が手術室から出てくるのを待っていた。


手術自体は中島が思っていたより早く終わり、二人はほぼ同時に手術室から出てきたが


意識はなかった。


ブルーの手術着を着ていた医師に、


「あの、大丈夫だったでしょうか。」


「江崎もドナーの小林さんもまだ若いですからね。回復は早いでしょう。


ただ、2ヶ月位の入院は必要です。」


「分りました。ありがとうございます。」


すぐにでも二人の顔を見たかったが、ICUに入り中島は面会は出来なかった。


中島が二人の面会を許されたのは3日後だった。


「どうだ?具合は?」


「最悪。」


「そりゃそうだ。手術して気分上々なんて奴いない。」


「麻子は?」


「小林の方も順調に回復してるそうだ。」


「そうか…。何か食いてぇけど、まだダメだそうだ。


健康の大事さをよくわかったよ。」


少し傷口が痛んだらしい。顔をしかめた。


「わかったなら少しは酒を控えて、大人しくしてるんだな。」


「お前だって飲むじゃねぇか。」


「俺は検診を毎回受けてる。サボったお前が悪い。」


「お前、見舞いに来たのかよ。嫌味を言いに来たのかよ。」


「両方。あと小林の事も気になってな。じゃぁ、また来るから。」


「今度は嫌味なしで来てくれ。それとこれ。」


中島に手渡したのは、途中だった仕事の内容だった。


「俺が急に抜けたからな。ここ頼みたいんだけど。」


中島はさっと目を通すと、


「分かった。お前のパソコンにパスワード入れてるか?」


「あぁ。」


江崎がパスワードを教え、


「他のとこ、見るんじゃねぇぞ。」


変な念の押し方をしてから中島を見送った。