子供の成長は早い。
気が付けば二人共高校生になっていた。
以前彰君が子供をつくると言う事は白紙になった。
二人分の高校生の教育費がバカにならなかったからだ。
篤は夕食の時、
「俺、親父達みたいにホテルマンになろうと思うんだけど。」
遠慮がちに言ってきた。
「大学はどうするの?」
「ホテルマンになる為の専門学校に行こうと思ってる。親父達みたいなホテルマンになりたいんだ。」
その言葉は私達には嬉しい言葉だった。
彰君が、
「ホテルの仕事は厳しいぞ。時間は不規則だし、
それなりにお客様に接しないと一流のホテルマンにはなれない。」
「分かってるよ。親父達を見てきたから。」
「あっ君だったら大丈夫だよ。」
加奈子も篤の進路に賛成の様だった。
加奈子は大学に行って教師になりたいそうだ。
加奈子は優しい子だからいい教師になるだろう。
その晩、彰君と私は篤の進路について話合った。
「どう思う?」
「篤の希望なんだ。あいつのやりたい事をやらせればいいよ。その方が篤の為だ。」
「自分の子供が自分と同じ仕事に就きたいって言うのは嬉しいけど複雑だわ。」
「なんで?」
「この仕事って簡単な仕事じゃないでしょ?まぁどの仕事もそうだけど。私達はそれを実感してるもの。」
「母親は子供に甘いな。」
そう言って彰君は笑った。
結局、二人で話し合って篤の希望通りホテルの専門学校へ進学する事を許す事にした。
二人の子供も、もう親離れしてそれぞれの人生を歩むんだろう。
それを見守るのが私達の出来る事だった。
数日後。加奈子が同年代の男の子を連れて自宅に帰ってきた。
「あのね…。彼、今私と付き合ってる児島 亘君。大学も一緒の所に行くの。」
児島君は緊張した様に、
「初めまして。加奈子さんとは高校の時からお付き合いさせて頂いてます。」
加奈子は少し恥ずかしそうに言った。
「私の彼を紹介します。これからよろしく。」
この子もいずれ彰君と私の様に結婚するのだろか。
少し寂しい気持ちになったけど、私達は喜んで二人の交際を認めた。
『私の彼を紹介します』
それは私が両親に言えなかった言葉だった。
その言葉を娘が言ってくれたのは誇らしげでもあった。
***Fin***