綾香は立ち上がると、
「さて、私は帰らなきゃ。旦那が帰ってくる前に夕食の支度をしないと。」
とカフェを出て行った。去り際に彰君に向かって、
「会えてよかったわ。佳那の事よろしくね。」
まるで彰君が私の保護者みたいな言い方だった。
波乱の半日が過ぎてしまった…。
まさか自分の彼氏を紹介するだけでなく、自分にまで転職の事を言われたんだから。
残った私達二人は、
「どうする?これから。」
「俺、この辺に家借りようと思ってるんだ。物件探しに付き合ってよ。
もしかしたらそのまま、佳那と住める家が見つかるかもしれない。」
「物件探しはいいけど、私が都内のホテルで働くとは限らないわよ。」
「大丈夫だよ。林田さんがうちにこないかって言ってくれてる位なんだから。
超一流の所までいかなくても、ボチボチいい所では働ける俺は思うよ。
取りあえず俺だけでも家探そうぜ。」
「分かった。」
いつもお茶代とか食事代を彰君が出してくれてたから
「ここはいいよ。私が出す。仕事の邪魔もしちゃったし。」
「邪魔はしてねぇけどさ。じゃぁごっそさん。」
彰君は足取りも軽く店を出て行った。
新しい職場がうまくいってるんだなぁ…。
その日は5件の物件を見た。
有楽町とか半蔵門あたりを見た。
さすがに日比谷は高かったし、これから取りあえず彰君一人で住むのか
私も一緒に暮らすかは決めないと、契約は出来なかった。
帰りの電車の中で、
「問題は佳那なんだよ。佳那が都心で働くなら二人暮らしの物件を探さないといけないけど、
まだ、あのホテルで働くなら俺一人の、物件を探せばいいんだよ。
お前さ、あのホテルにこだわる事ないと思うよ。高杉さんの事もあるし。」
そうだったんだ…。明日、高杉さん来るのかなぁ。