Tomorrow is another day 番外編 89話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

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麻子が仕事復帰しても、会社の人間は何も言わずいつも通り麻子に接した。


それを見ている中島は辛かった。


麻子が何事もなかったかの様に笑っているのがさらに辛かった。


定時を過ぎ帰り支度をしていたら、千夏から電話が入った。


「お久しぶりです。今いいですか?」


「はい。」


「お話したい事があるんですけど、お時間取れますか?」


「急ぎの用ですか?」


今は千夏に会いたくなかった。


「はい。早急にお話しなきゃいけない事です。」


「わかりました。迎えに行きますから駅前で待っててください。」


「わかりました。」


電話を切ると千夏はほくそ笑んだ。


手には妊娠検査薬がある。結果は陰性だった。だが、それを慎重に引き抜き


結果が出る丸印の所にそれらしくラインを書いた。そしてまた元に戻す。


(これでラストよ)



駅前で中島と千夏は落ち合った。江崎に焼酎を投げつけれた居酒屋には行きたくなかった。


おそらく店主もあの事を覚えているだろう。


千夏が早急に話したいと言っていたので、個室が取れる居酒屋に行った。


「それで急ぎの話って?」


「あの…。」


言いにくい様な芝居をする。


「これ…。」


千夏は先程、細工をした妊娠検査薬をテーブルに置いた。


中島は恐る恐る手に取ると、千夏の顔を凝視した。


「まさか…。」


「まだ、病院には行ってませんけど。」


当たり前だ。病院で検査などしたら妊娠してない事がバレてしまう。


「ごめんなさい。でも、中島さんは心配しないで下さい。私一人で育てます。」


中島がそんな事を言われて了承する様な男ではない事を知っていて『自分で育てる』と言った。


「いえ…。責任は取ります。」


「そんな責任なんて…。」


「付き合っていたあいつともうまくいってないんです。責任は取らせて下さい。」


「じゃぁ…。結婚…。」


「はい。後日、ご両親にご挨拶に伺います。」


中島はこれで麻子との関係は終わったと思った。何もかも千夏が仕組んだ事なのに、


自分の責任だと感じてしまった。


江崎が今は麻子の面倒を見ている。江崎とうまくいってくれればと思った。


(あいつなら麻子を幸せにしてやれるよ…)


だが会社の人間にどう説明するばいいだろう。


できちゃった婚だと報告すればいいのだろうか。


皆は祝福してくれるだろうか。


おそらくしてくれない気がした。



その頃、麻子はまだ江崎の自宅にいた。


「もう大丈夫ですよ。」


「いや、俺の目から見たら全然大丈夫には見えねぇ。」


たまに麻子は一人でリビングでぼんやりしているのを江崎はさりげなく見ていた。


「だけど、江崎さんって意外と紳士だったんですね。」


「何で?」


「こんなに長い時間一緒にいるのに、全然何もしてこないから。」


その言葉を聞いて、江崎は麻子の手を取った。


「じゃぁ…。試してみる?」


あまりの真剣な顔に麻子は何も言えなくなってしまった。


だが、江崎の方から笑って、


「冗談だよ。」


と、手を振り後ろを向いてしまった。


(今更出来ねぇよ)


そんな事を思いながら。


その後ろ姿を麻子はじっと見ていた。