Tomorrow is another day 第2章 始めからの方はこちらから
東京の自宅に帰る前に千夏の実家に寄った。
これからは頻繁に会えないだろうから、最後には孫の顔を見せてやりたかった。
「巧さん、勝の事よろしくお願いします。私達はなんの役に立たなかったから。」
「そんな事ないです。警察の方に勝があのアパートにいるヒントを教えてくださったのですから。
千夏の事は『悪い母親だった』とは教えず、いつか勝がわかる日が来たら本当の事を話します。」
「すみませんでした。千夏のせいで勝をこんな目に合わせてしまって。」
「結果的に勝は元気になりましたから、その事はもういいです。じゃぁ、電車の時間がありますで
これで失礼します。勝、おじいちゃんとおばあちゃんにご挨拶。」
「じ~じ、ば~ば。また来るね。」
すでに目を涙で潤ませている祖母は勝を抱きしめると、
「ちゃんとお父さんのいう事を聞いていい子にしてるのよ。」
「うん。」
短い時間だったが、最後に孫の姿を見せてよかったと思った。
東京の自宅に帰る時、勝がポツリと呟いた。
「ねぇ、パパ。」
「どうした?」
「もうあの怖いお兄ちゃんは来ないよね。」
おそらく虐待も受けていたのだろう。病院を退院したとはいえ、心には傷は負っていた。
その傷を治してやりながら育てなくてはいけないと思った。
「大丈夫だ。もし、来てもパパが追い返してやるよ。パパが強いの知ってるだろ?」
「うん。」
そして、電車の揺れで眠気が来たのか、中島の膝に頭を乗せあっという間に寝てしまった。
東京駅には優人と麻子が迎えに来ていた。
もしかしたら荷物が多いかもしれないから、と麻子が提案したのだ。
八重洲口から出てきた中島と勝はなかなか見つからなかったが、中島の方から声をかけてきた。
「悪いな、結婚式の準備で忙しいのに。」
「いいんですよ。でもよかったですね、勝君が元気になって。」
「ホントは最初、ダメなんじゃないかって思ったよ。でも子供の生命力ってすごいな。
ここまで元気になったんだから。」
麻子とじゃんけんの遊びをしている勝を見て安心したように呟いた。
「パパ~。このお姉ちゃんとお兄ちゃん、パパのお友達?」
「そうだ。これから時々遊んでくれるらしいから、ちゃんとご挨拶しなさい。」
勝はじゃんけんを止めて、二人の前に立つと頭を下げて、
「中島 勝。5歳です。」
「偉いわね、ちゃんと自己紹介できるなんて。中島さんも躾がしっかりしてて私も安心だわ。
でも、何かあったら相談に来てね。せっかくご近所なんだから。」
「サンキュ。」
「じゃぁ、いつもの店で勝君の快気祝いでもしましょうか。」
「あの店は悪いよ。勝だって5歳だから店に迷惑をかけるかもしれない。」
「大丈夫ですよ。マスターも子供好きですから。しょっちゅは出来ないけど、今日はいいでしょう。」
中島は勝の視線に合わせる様にかがむと、
「このお兄ちゃん達が美味しいごはんを出してくれるお店に連れてってくれるそうだぞ。
よかったな。」
「ホント?本当はね、病院のごはん最初は美味しかったんだけど、だんだん美味しくなくなったの。」
病院食が美味しいはずがなく、おそらく最初の頃はまともに食事を与えてられなかったから
なんでも美味しく感じていたのだろう