夕方になって光の事務所の社長さんから電話がかかって来た。
私は早く病院で妊娠しているか、はっきりしたくて
もうちょっと早く電話が欲しかったんだけど、多分上杉さんから
私が妊娠してるかもしれない事を聞かされて、色々手を打ってたんだろうな。
「もしもし、紺野さんですか?」
芸能界でも恐れられている『女史』からの電話だから少し緊張しちゃう。
「は、はい。」
「光とあなたの将来について相談があるそうですけど、
光はあなたと結婚する気みたいですね。
でも、実際問題として私達事務所としては認められません。」
いきなり結婚に対して反対意見を言われて、
ますます私は妊娠してるかもしれない事を
言いにくくなってしまった。
「…。」
私が妊娠の事を言おうかと迷っていると、
『女史』からズバリと言われてしまった。
「上杉からの報告によりますと、
もしかしてあなた、子供が出来たらしいんですって?」
「…病院には行ってませんが、多分妊娠してると思います。」
「堕して下さい。」
(えっ?堕ろす?)
私が動揺していると、『女史』は私の気持ちもそっちのけで言葉を続けた。
「今、BLUE MOONでそんなスキャンダルは困ります。今が大事な時なんです。
健は子供が出来て、堕ろせない時期に報告してきましたから
結婚の許可は出しましたが、あなたはまだ間に合いますよね。」
「でも…。せっかく授かった命ですし。簡単に堕ろすなんて出来ません。」
『女史』は電話先で鼻で笑うと、
「幸い、光は気がついていないようですし、今から紹介する病院で今日中に
処置して下さい。」
「『処置』って人一人の命ですよ。そんな風に言わないで下さい。」
同じ女性だから理解してくれるだろうと思ってた私が甘かったんだ。