10年目の配達人  LAST CASE 松本 美鈴 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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CASE1 小柳 潤  CASE2 岡田 康子

CASE3 佐藤 愛  CASE4 柳田 瞬


CASE5 氷室 守  CASE6 渡辺 勝人



僕は24年ぶりに自分の家のある駅に降り立った


24年前は無人駅で木造の作りだったが、今は立派になっていて


びっくりした


自分の家までうつむきながら歩く


妻はどんな顔をして、僕を向かえ入れてくれるだろうか?


5分程歩くと僕の家に着いた。僕の家は昔と変っておらず


庭にはおそらく妻がガーデニングでもしたのだろう


花が咲き誇っていた


その庭で1人の女性が洗濯物を取り入れていた


僕は息を飲んだ。妻の美鈴だった。


僕がしばらく妻を見ていると、視線に気が付いたのか


妻が僕の方を振り返った


持っていた、洗濯物が手からこぼれ落ちる


「賢治さん…」


美鈴がそうつぶやいた声がかすかに聞こえた


僕は近づくのをためらったが


「ただいま」


おずおずと1歩1歩歩み寄り、渡辺さんと選んだお土産を出して


「長いこと留守にしてすまなかった」


と、あやまった


美鈴は呆然と僕を見ていたが


「今まで、どこに行ってたんですか?!


どれだけ心配したと思っているんですか?!」


いきなり平手打ちを僕にした


僕は頬を押さえながら


「…ごめん」


だが、次の瞬間美鈴の目からは涙がこぼれ出た


そして僕にしがみつき


「お帰りなさい」


肩を震わせながら泣いていた


僕は彼女の肩を抱き


「渡辺さんから手紙をもらったよ。本当に君にはすまない事をしたね


でも、この24年間で素晴らしい人たちと出会ったんだ


話を聞いてくれるかい?」


美鈴に尋ねてみた


彼女は何も言わず、何回もうなずくだけでしばらく僕にしがみついていたが


「お互い、年を取りましたねぇ。今、お茶を入れますから家に入りましょう」


僕のバックを持ってくれた


僕達は家の中に入ると、美鈴がお茶を入れてくれてきて


この24年間の話をし始めた


それはとても長い長い話になったけれど


これからは、妻の美鈴と一緒に笑いながらこの家で過していくのだろう


「過去は捨てた」と言う言葉も使う事もなく、妻と未来を築いていくのだろう